17世紀にアメリカ大陸で初めて列聖されたサンタ・ロサは、ペルーの守護聖人として全国各地で崇められている聖女だ。我が友人の故郷アンカッシュ州コンガス村でも、8月30日のサンタ・ロサの祝日を挟んでの5日間、村を挙げての盛大な祭りが行なわれるという。朝から晩まで酒を飲んで踊りまくるという村祭りを見に、標高3055mに位置するアンデスの山村を訪れた。
未舗装の悪路を時速10〜15kmで
数時間かけて登っていく
村へ向かうバスは超満員!
座席がない人は荷物と一緒に屋根の上へ コンガス村のサンタ・ロサ祭りは、選出された3〜4組のカピタン(隊長)とカピターナ(隊長の妻)がすべての行事を執り仕切り、互いにその内容を競うのだそうだ。各組ごとにブラスバンドを招き、祭りの衣装や小物を揃え、仕掛け花火を作り、客人やバンドに振舞う酒や食べ物を用意するのだが、その規模がとにかく凄い。例えば去年、友人夫婦がカピタンを務めた時は、ビール大瓶200ダース、牛3頭、豚4頭、鶏20匹、クイ(テンジクネズミ)80匹を用意したそうだ。祭りの時期には欧米やペルー各地に住むコンガス村出身者たちも大勢戻ってくるので、食べ物や飲み物が足りなかった、などということは絶対あってはならない。経済的負担は相当なものだが、カピタンを務めるということはそれだけ名誉なことであり、村人の尊敬を集めるのだ。
さあっ! やぐらに点火だ!
人々の頭に降り注ぐ、アンデス風“ナイアガラ” 祭りは8月28日に始まるが、今回私たちは2日目の花火見物から参加した。村の広場には高さ10mほどのやぐらが2基あり、そこに風車型や星型の花火が仕掛けられている。午前零時ごろの点火と聞いていたが、今年は準備が遅れたのか、まだ花火師たちが何やら仕掛けを作っていた。そのすぐそばではカピタンや村人たちが、ビールやチンギリート(アンデス特産のサトウキビから作られる甘いお酒)を飲みながら、バンドの音楽に合わせて踊りまくっていた。
聖女の表情が、熱さで歪んで
いるようにも見えるが…… しかしアンデスの夜はとにかく寒い! 体感温度でいうと2〜3度だろうか。ダウンジャケットを着込んでいてもガタガタ震えてしまう寒さだ。村人たちと踊れば少しはましだろうが、揉みくちゃにされそうでさすがに遠慮した。それにたとえ踊って身体が温まったとしても、頭からビールを振りかけられては堪らない。
そしてやっと点火! シュシュシュシュ…シュルルルルッ!! 物凄い勢いで火の点いた仕掛けが回り出し、聖女サンタ・ロサの美しい顔が闇に浮かびあがった。この豪快さが堪らない。やはりアンデスの花火はこうでなくては!
しかし勢いの良すぎる火車のお陰で、辺り一面火の粉の海! ところ構わず飛んでくる火の粉のせいで友人のダウンジャケットには大穴が開いてしまい、髪の毛も焦げ、私も手に小さな火傷を負ってしまった。豪快すぎて負傷者続出のアンデスの花火。それでも人々は深夜まで飲み、踊り続けるのだった。