先日は「東西噺」と銘打った「柳家さん喬・露の新治」両師匠の落語会。開口一番「林家つる子」、開口二番「柳家やなぎ」の2人の話を経て本編に入る。演しモノはこちら。
・開口一番「初天神」 林家つる子
・開口二番「短命」 柳家やなぎ
・笠碁 柳家さん喬
・鹿政談 露の新治
<お仲入り>
・腕(かいな)食い 露の新治
・幾世餅 柳家さん喬
マクラに「東西文化」の違いをふる新治師匠に対して「上方噺」の思い出についてはじめるさん喬師匠は好対照。さん喬師匠の「東西の違いを示すつもりはないのですが」との言葉に反してその差違を見ることができるいい会になった。「開口二番」はさん喬師匠のシャレ。
今回は「長芋モチモチ焼」を。こちらを食して東西友好を!
じつはさん喬師匠からの依頼で当日配布されたプログラムのデザインとそこに載せるコラムの執筆を僕が担当した。そのコラムで「東西冷戦集結への道」というタイトルで「東京と大阪の温度差」のようなことについて書いたので、新治師匠はその内容を受けてマクラを振ってくださったのかもしれない。そのコラムを再録する。
「東西冷戦終結への道」
大阪は怖い、と思ったのは今から20年ほど前、
中学生の時の大阪万博以来初めて仕事で新大阪に着き、
環状線に乗りかえたときのことだった。
「全員が大阪弁を話している!」。
あたりまえだがこの事実が怖かったのである。
それは「オモロないやつ」という烙印を
押されてしまうことへの恐怖感、
あるいは「何か面白いことを言わなければ!」
という強迫観念だったかもしれない。
よく大阪の人達が持つ「東京への対抗心」
のような発言を聞くけれど、
「なにもそんなに」と困惑するのは、
元来、東京生まれの人間は
そんな大阪の人々の「笑わせる技術」に対して
ある種のコンプレックスを
持っているような気がするからで、
「東京なんてたいしたことないスよ」
と言いたいのだけれど、そう言えば言ったで
また腹を立てられそうでまた怖いのである。
しかし一方で、先日他界された
米朝師匠をはじめとして、六代目松鶴、
五代目文枝、二代目枝雀(敬称略)といった
名人を聴きたいと思うのに
なかなか高座に接する機会に恵まれなかった、
と訃報に触れるたびに嘆いた東京の落語ファンは多いはず。
このところ二人で会を催すことの多い今日のご両人。
聞けば互いに行き来をして
東西で会を催し合っているという。
これを機にさらに落語好き同士の交流と
相互理解が深まり、東西冷戦の終結することを願う。
話が大きくなりました。
最後に僕の好きな話。
大阪・繁昌亭での「さん喬独演会」を聴き終えた女性2人の会話。
A「ホント人情噺が上手ね!」
B「ホンマにねー! 志ん朝つげはええのに」。
僕「(!)」
<了>
【掲載分に若干手を入れました】
実話である。本来はこのあとに
A「柳家さん朝 !?」
というサゲがつくのだが、師匠の判断でこの部分は割愛された。ここを省くときちんと落ちないような気もするけれどクライアント(笑)の意思を尊重、削除した。さん喬師匠が自身の名にプライドを持っている、という意思の表れ、と解釈している。それはさておき。
東西の笑いの違いについて「広告」の例を引いて笑わせてくれた新治師匠。
たとえば「痴漢防止」のポスターの文言。
東京「痴漢は犯罪です」
大阪「痴漢 アカン!」
たとえば警察官募集のポスターのコピー。
東京「首都を守るプライド 警察官募集」
大阪「草食系より大阪府警」
なるほど納得の大阪の力だ。師匠は「笑いをとらんと納まらんのですなぁ」と謙遜していたが、あれはおそらく「大阪の方がおもろい」という自負である。
笑いに対する反射神経、スピード感では「大阪の方が勝っている」というのは誰もが認めるところで、だからこそ東京で生まれ東京で育っている人間が、例の「アホバカ分布図」で証明されているにもかかわらず「アホか」というフレーズをふつうに導入しているのはその証拠。東京人も「バカ」より「アホ」の方が軽くて相手を傷つけないと感じているからではないだろうか。
この手の議論は専門家に任せてこれ以上は掘り下げないが、これらは総じて東京人が大阪に対してあちらが思うほどの優越感を持っていないことを示しているのではないかと思う。「大阪の笑い」と「東京の笑い」、どちらもそれぞれ特徴があって捨てがたいと思うのが僕の立場で、それだけに一方的に「東京弁はスかしている」とかいうこちらがどう返していいかわからない対応に戸惑うばかりなのだ。
「無意識の態度」、これがまたシャクに障るんでしょうね。なんとかもう少し相互理解が深まって、互いの「笑いの質」を尊重し合えるようになればいいのに、という想いで今回のコラムを書いた次第であります。
というわけで今回のかんたんレシピは「長芋モチモチ焼」。このところときどき安売りされる長芋。気軽に使えるのがいいですね。大阪の人も好きかしら。
考えてみると周辺各国の人達から「なぜそんなに?」と思うほど嫌われている対応、あるいは「嫌われているとされる報道」を聞く度にやや戸惑う気持ちとなにか似ているような気もする。根が深い、というか何というか、でもだからこそ怒らずに冷静に反応しなければならぬと自戒するところ。でも「冷静な対応」でまた反感もたれたりしてね。困ったものです。
大阪。案内人付きで一度じっくり歩いてみたい街であります。じつは大人になってからちゃんと歩いたことがないのだ。
そんな要望を述べてこの辺で。次回は最終回。6月23日更新の予定です。
【Panja MEMO】
●大阪府警の募集ポスター
大阪府警の募集ポスターは「笑いをとる」という路線でシリーズ化してるようです
●アホバカ分布図
・Wikipedia
・松岡正剛氏による分析
●私、あの「まぐまぐ」でメールマガジンを発行しております。
「モリモト・パンジャのおいしい遊び 」
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