アクアプレイス旭 –死神の叫び–

vol.7_02.jpg さて、今回は浅草の『アクアプレイス旭』なる銭湯に突入する。
この"アクアプレイス"という響き。なんとも優美でよいではないか。
名前の響きから想像するに、そこはきっと美しい花々の咲き乱れる天国のような銭湯に違いない。
浴場には羽衣を纏った天女がいて、都会に疲れた男たちの背中をそっと掛け流しているのだ。
午後六時。そんな幻覚的妄想をしながら、早速風呂の仕度をして自転車を漕ぎ出したのだった。

寒風吹きすさぶ千束通りを抜けて仲通りに入ると、目指す"アクアプレイス旭"はあった。
そこはこざっぱりとしたビル型銭湯で、入り口の前にはたくさんの自転車が停められてある。
早速111番の下足箱に靴を放り込んで中に入ると、こぎれいなロビーが眼前に広がった。
ロビーの中央に番台があり、その左右に男湯と女湯の入り口がある。番台は若い女性だ。
やっぱり"アクアプレイス"は違いますな。
さて、番台に湯銭を置いて脱衣場に入ると、すでに大勢の湯客で賑わっていた。
羽衣を纏った天女は見当たらないが、代わりに全裸のポセイドンたちが犇めき合っていた。
浴場に配置されたL字型の浴槽は、左から、抹茶風呂、電気風呂、マイナスイオン風呂、ジェット風呂、リラックス風呂、ボディーエステ風呂など、6種類の風呂に仕切られてある。
驚いたことに、浴場がロフト式になっていて、2階部分にも湯客の姿が見えた。
早速ペタペタと裸足を鳴らして階段を上ると、そこには有料サウナと水風呂があった。
2階は有料施設なだけあって、金持ち湯客が数人いるだけだ。
彼らは一様にペルシャネコを抱き、片手でワイングラスを揺らしながら、一階の貧乏湯客を優雅に見下ろしている。
金持ち湯客ではない私は、チッと舌打ちをして再びペタペタと1階に下りた。
カラン場はたくさんの貧乏客たちで賑わっている。
しかしそれぞれの洗い場が広いので、心置きなく湯を使うことができそうだ。
私もその一画を陣取り、早速ガシガシと体を洗い始めた。
目の前の抹茶風呂に、紋紋入りまくりの金髪男が浸かっている。 vol.7_01.jpg その背中には、何かを叫んでいる死神の絵柄が彫り込まれている。湯に揺らぐ死神は、「やっぱ風呂最高?!」と叫んでいるに違いないのだ。
体を洗い終えた私は、迷わずリラックス風呂に身を沈めた。
ここ最近、身の回りで厄介な出来事が多く身も心も少々疲れていたので、強めのジェット水流がなんとも心地よかった。
「やっぱ風呂最高?!」
私も死神風に顔を歪めて叫んでみたい欲求に駆られたが、寡黙な湯客を装って、そのまま目を閉じていたのだった。

『アクアプレイス旭』 東京都台東区浅草5-10-10