季節をめぐるメディアの陰謀

落語のマクラ。たとえばこれから向かう暑い季節には

 近頃はどんな食べ物でも季節を問わず店頭に並ぶようになりましたが
 昔はそう言うことはなかったそうですな。
 胡瓜や茄子は夏の野菜で冬に食べるなんてェことはありませんでした。

などとフラレることがある。ボンヤリ想像するに「夏の医者」あたりの演目でこんな風にはじめたらごく自然に噺に入って行けるだろう。

「夏の医者」は上方噺「ちしゃ医者」が東京へ移されて成立したという演目で、僕はこの上方版を故・枝雀師匠の高座で一度だけ伺ったことがある
けれど、東京版の「夏の医者」とは違ったバレ噺(下ネタの噺)でちょっと驚いたものだった。

サゲに関わることなので直接は書かないが、この噺に登場する「ちしゃ」は漢字で書くと「萵苣」、今で言うレタスのことで、これは東京の「夏の医者」にも出てくる野菜。たとえばこの「夏の医者」なら先ほどのマクラのあとに

 レタスなんかもそうですな。
 これは昔「チシャ」といって夏にしかなかった。
 チシャは生の冷たいままを食べることが多いので食べ過ぎると腹を壊す。
 だから俗に「夏のチシャは腹に障る」なんぞと言って
 その食べ過ぎを戒めていたようで……

と続けてサゲの伏線を張りつつ本題へ入ってゆくのである。

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今回は「ゴルゴンゾーラのパスタ」です。
白ワインを飲み始めるタイミングまで指南のレシピは後半に

ところでこのマクラの最初の部分は新聞やテレビなどでもよく聞くネタフリで、「ホントに今はなんでも一年中たべられるようになりましたね」なんてことをニュースキャスターやタレントが無闇に言っているのを耳にすることがある。

しかし毎日夕飯のためにスーパーへ買い物に行っていると、ついこの発言に疑問を呈したくなる。あんがい今でも店頭に並ぶものはそれなりに季節を如実に反映していることがよくわかるからだ。

例を挙げれば、野菜や果物ならリンゴの紅玉や温州みかんに夏ミカン(夏ミカンって夏にはない、冬から晩春にかけての果物なんですよ。ご存じでした?)、ウドやゴーヤーあたりはやはり季節にならないと店頭に並ばないし、よしんば並んだとしても落語の「千両みかん」とは言わぬまでも値段が高くて手が出ない。

魚もマグロや秋刀魚、ブリなどは冷凍・養殖を含めて一年中あるとしても、サヨリやタチウオ、サワラ、ワカサギあたりは季節によって鮮魚売場に出たり消えたりしている(もちろん冷凍はのぞく)ように見えて、やはり季節による移り変わりを感じることができるのである。

つまり巷間「今はたとえ生鮮食品であろうとも季節を問わず手に入る」と言われている言説は、それほど実態を伝えてはいないと思うのだがどうだろうか。

そんなことを考えていて思い出すのはクリスマスの頃に売られるデコレーション・ケーキにふんだんに使われる苺で、あれは推測するにハウス栽培のものに違いないから、ついつい「露地栽培」しか頭にないと違和感を感じるけれど、これなんかはその「いつの季節でも手に入る」と言って間違いないだろう。種類によってはこの説が当たる場合もあることはわかる。

しかし「今は季節を問わずどんな食べ物でも……」とお定まりに言うのはどうか、とも思うのである。筍、茗荷、柿、ワサビ菜あたりはその季節にならないと目にすることができないし、よしんばあったとしても妙に高価か味が落ちるかで、やはり「旬」の時期に楽しみたいと強く思う立場としては、そういう「俗説」を「当然の共通認識」にしてしまうメディアの配慮の有り様はいかがなものか、と憂えてしまうのだ。

考えてみれば、こういう「メディアの俗説」は他にもあって、曰く「本を読む人が少なくなった」、曰く「このゲームが流行っている」、曰く「スマートフォンが通信手段の主流」、曰く「今年はミモレ丈スカートが流行る」云々……というのはよく耳目に登場する。

ところが僕の身の回りには熱心に本を読んでいる人がやたらと多いし、ガラケー愛用でゲームもしない、スカート履かずに和服(これはやや環境にバイアスがかかってますけど)……みたいな人々ばかりなので実感がない。

なにかマス・メディアから「そういうものです」という先入観をしきりに植え付けようとされているのではないかという「被害妄想」すら覚えて、「だいたいまだその季節も来ていないのに『今年の春夏のトレンド・カラーはこれ』とかおかしいだろ。誰が決めてるんだ!」とひとしきり問い詰めてみたい気持ち満々な今日この頃であります。

 

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そんな季節の変わり目の「かんたんレシピ」は「ゴルゴンゾーラのパスタ」。カンタンにして旨。先日パスタを茹でるときに「ウドの皮」を刻んで一緒に入れたら「春を感じる」と大好評でした。この季節においしいウド皮も使い切れて便利です。ぜひどうぞ。

d20150414_pic2.jpgそういえば鴨の肉なんかも冷凍ならあるものの生の鴨肉は冬にしか出ないですね。肉で季節が反映されるってのは珍しい。あれは「冬の鴨肉は脂がのって旨い」ってことなんだろうけど、僕が行くようなスーパーでは元から高い鴨肉はそう売れないらしくて、冬場でも見ることはありませんでした。今年の冬は一度くらい食べてみたい。

ところで今朝そのスーパーをのぞいたら「紅玉リンゴ」がまだあった。今年は長いね。あれもジャムを作ろうと思って探してもないときには絶対ないんだよね。しかもそういうときに限って食べたくなるのがコマルのこと。なくならないうちにもういちど買って作っておこうっと。というわけで今回もこの辺で。次回は4月28日更新の予定です。

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