今年もセマナサンタ(聖週間)がやってきた。カトリックではクリスマスより大切な、キリストの受難、およびその死と復活を体験する聖なる週だ。
キリストの苦難を共に体験するのだから、キリスト教圏の国、特にヨーロッパ諸国なら大概は期間を通して肉食はタブーとなるが、ことのほか肉好きなペルー人に「1週間、肉を食べるな」というのは土台無理。
おまけにものにこだわらない、おおらかなラテンの血だもの「聖木曜日は最後の晩餐だから肉もワインも大丈夫。でも聖金曜日だけはさすがに魚料理にするわ」となるようだ。だからキリストが十字架に架けられた聖金曜日は、ペルー人にとっても受難の日なのである。一応?!
さて、その聖金曜日の夜。近くの教会でプロセシオン(キリスト教の行進)が行われると言うので、出かけてみることにした。大勢の信者がキリストやマリア像を乗せた山車を担いで、主の復活を願いつつ街を練り歩くのだ。
教会に行ってみると、いくつもの色鮮やかな花びらの絨毯が教会の周りを覆っていた。この上をプロセシオンの一行が歩くのだろう。オレンジ色の街灯に照らされた花びらの絨毯はとても神秘的で美しかった。
とにかく人が多い。教会ではミサが行われていたが、すでに満員で入口に近づくことすらできない上に、人出はもっと増えそうだ。プロセシオン開始まで時間があったので、どこか休憩できそうな店をと探してみたが、どこも満席。やっと見つけたのはポジェリア(鶏肉の炭火焼屋)だけだった。すぐ隣で「ああ、主が死んでしまった!」と嘆いているのに、この場で肉を食べるのは仏教徒とはいえさすがに気が引ける。それに、きっと開店休業みたいなものだろう。
と思ったのが大間違い。ポジェリアは、鶏肉やフライドポテトを頬張るペルー人たちで賑わっていた!
「???」
申し訳ない雰囲気など微塵もなく、鶏の香ばしい匂いが悪魔のように人々を誘い込む。今空いているテーブルはたった1つ。これを逃すとプロセシオンまであと1時間は人ごみの中に立っていなければならない。さてどうするか、どうするか…
数分後、そこには冷えたビールと鶏肉を摘まむ日本人がいたのだった。
夜8時、プロセシオンが始まった。豪華に飾り付けられた山車が教会から次々と運び出され、教会関係者が信者にロウソクを配る。ロウソクを手に祈りを捧げる人々の表情はとても穏やかで、キリストの復活を信じる強い想いが伝わってきた。服に染みついた炭火焼の香りが人々の祈りを妨げないかと恐れつつ、煌々と輝く山車をいつまでも眺めてた。