第三桜湯 –駄菓子屋的銭湯–


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個人的に“昭和”の薫りが好きなので、度々“昭和”を探しに旅へ出ることがある。まあ旅と言っても別段泊りがけでどうこうというわけではなく、ただふらりと思う町を目指して足を伸ばすのである。

そんなわけで、今回は昭和な銭湯を探しにいくぞと。昭和な銭湯を訪れて、その帰りにインドカレーを食べるぞと。なぜインドカレーか? オレの行動に深い意味などないのである。

さて、昭和と言えば路面電車だろうな。もうこれしかないね。車内に差し込む柔らかい日差しの中で、老人が一人二人居眠りをする。そんな光景が実にノスタルジーをかき立てるのだ。

早速自家用ジェットに乗って、路面電車の始発駅である荒川区の三ノ輪橋へと向かった。すると、いきなり昭和だ。町の色と匂いが昭和だ。何とも感傷的な気分に浸りながら、昔ながらの店が連なる三ノ輪橋商店街を歩く。
すると、聞こえるはずのない豆腐屋が吹くラッパの音や、当時流行した歌謡曲などが、今まさにどこからともなく聞こえてきそうな感じがするのだ。ああいいなぁ。なんだろうこの感じ。おそらくオレにとっての郷里の原風景なのだろうな。と、いつまでも感傷に浸っていても仕方がないので、素早く路面電車に乗り込んで、今回の目的地である「第三桜湯」へと向かった。


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「第三桜湯」は、都電荒川線「荒川区役所前」駅から歩くこと3分。風格のある唐破風造りの屋根が目印の老舗の湯だ。
銭湯の前にはご主人お手製のクマの人形が置かれ、湯客を出迎えている。早速下足箱に履物を放り込んで脱衣場に入ると、レトロな雰囲気に思わず雄叫びを上げたくなった。いや、リアルにちょっと雄叫びを上げた。

飴色の格子天井を見上げると、創業当時から回っているというシーリングファン。壁面にはなぜかバスケットゴールが設けられている。そして、番台の横にはおもちゃの飛行機がぶら下がり、棚の上には漫画本が並ぶ。さらに坪庭に出ると、ご主人お手製の野球盤が置かれ、とどめは浴場の壁絵。なんとこれもご主人お手製のブリキ細工によるものなのだ。


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この雑多な感じ、たまりませんな。何と申しましょうか。駄菓子屋を訪れた時のようなワクワク感とでも申しましょうか。「第三桜湯」には、そんな昭和な温もりが残されているのだ。

肝心の湯は、カルシウム風呂と泡風呂の二種類。カルシウムは体に良いので、とりあえずカルシウム風呂の浴槽の湯を全部飲み干してやった。

銭湯を後にすると、辺りがセピア色に変わっていた。時間がいつもよりゆっくりと流れていた。日々の忙しない時間の中で、たくさんのものを見落としていたのだと気づく。特急電車の車窓に映る景色は一瞬にして消えてゆくが、路面電車の車窓に映る景色は一枚の絵画のようにたくさんの発見を与えてくれるのだ。

路地裏に 春見つけたる 梅の白