やっと秋になりました。先週の初めはまだまだ暑くて「来年の夏までこのまま暑いんじゃないか」と心配になりましたけど、季節は必ず巡ってくるもんですね。体から「ホッ」という声が聞こえてきそうです。そうなると今度は「風邪」だ。まわりでもひいちゃった人がちらほら。どうぞご注意ください。
ところでプロ野球もシーズン終盤、というか贔屓のチームの成績が「アレ」なもんで個人的にはすでに「シーズンオフ」な心境。もともとニュースと野球以外は興味のあるもの(大変少ない)しかテレビをあまり見ないことと、もうひとつの別件事情(これは次回のネタに保留)も相まって夕食後は映画を見ることが多くなっています。
主に「日本映画チャンネル」や「時代劇チャンネル」といったCS放送で放送されている、これまであまり見る機会のなかった古い邦画が多いのはちょっと思うところがあるからで、いつか面白いことができたらいいなと思いつつ、いろいろと用事もあるので毎晩というわけには行かないけれど、余裕のある夜は録画しながらチャンネルを合わせます。先週見たのは下記の4本。
●「月形半平太 花の巻 嵐の巻」(1956)監督:衣笠貞之助
出演:長谷川一夫 山本富士子 市川雷蔵 京マチ子 菅原謙二 勝新太郎 大河内傳次郎
●「百蘭紅蘭」(1952)監督:仲木繁夫
出演:久我美子 沢村昌子 根上淳 山内明
●「悪名」(1961)監督:田中徳三
出演:勝新太郎 田宮二郎 中村玉緒 水谷良重
●「続・悪名」(1961)監督:田中徳三
出演:勝新太郎 田宮二郎 中村玉緒 水谷良重
いやぁおもしろいなぁ。上田吉二郎やら山茶花究やら、久しぶりに見る顔ばかりだけどじつに新鮮に楽しめます。「百蘭紅欄」はその後の「お上品な奥様」系の演技しか知らない久我美子が若いころにはこんな「可愛い悪女」を演じていたことがひどく意外だったし、52年当時の風俗や服装もおもしろかった。
さらに「悪名」シリーズの歯切れのいいテンポでまったくダレない脚本の巧みさが見ていて実に気持ちがよくて、古い映画に新しい楽しさを発見すること、こんなに嬉しいものかと素直に思います。いや〜今さらながら「温故知新」て、ホントに楽しいですね。
なかでも「月形半平太」で
「月様、雨が……」
「春雨じゃ、濡れてまいろう」
の下りを聴いたときなど、「出典はここだったか!」と世間の長谷川一夫ファンに聞かれたら激しく叱責を受けるに相違ないことを思ってソファから滑り落ちそうに。
子供のころ以来、幾度となく牧野周一や桜井長一郎の「芸」でその声色を聞いたこの台詞の「オリジナル」がここにあることを浅学にして知らなかったこと、この期に及んで「知っていることより知らないことのほうが(邦画だけに……失礼)まだまだ多い」と深く反省をすることしきりだったのであります。
とはいうものの、別にこれからも「マジメに調べて映画を見よう」なんていうつもりは毛頭ありませんよ。こんなふうに「勉強」じゃなくて、風俗・習慣に興味深いところを見つけては面白がる、そんな「物見遊山」で見ていきたいと思っているわけで。
というのも、こと名画・名作の類は映画ばかりではなくて芝居や小説なんかもそうですが、見ようとするといきおい「勉強」の領域に踏み込みそうになる傾向が往々にしてあるような気がするからなんですね。どうも、そんな風になんでも「勉強・学習」にしようとする風潮が世間にあるように思えるのは僕だけでしょうか。
いつだか歌舞伎の客席で膝の上に帳面を広げ、ろくに舞台も見ずにノートを取っている方を見たときには「あれ、楽しいんだろか?」と複雑な心境になったもんです。なにか研究されているんでしょうかね。ただ見物に来て「勉強」しているなら気の毒だし、「好きなことが研究対象」になっていたにせよ、一面「趣味と実益をかねている」ようにも思えますけど、心の底から楽しむことができなくなるような気がして僕はあまり気が進みません。
映画や舞台の内容、社会背景、筋立て、演技力などについての詳しい分析は専門家の方々に任せることにして、ただただ画面を舞台を物語を「楽しむ」という見物の仕方が僕は好きなんですね。面白がりながら気がついたら詳しくなっていた、ってのが自然でしょう。勉強、昔っからキライなんですよ。へへへ。
ところでこうして映画などを見るときに興味の対象になるひとつがもちろん食べ物。残念ながら今回列挙した4本にはあまりそういう描写が多くありませんで、ちょっとおもしろそうだったのが「悪名シリーズ」2本に出てきた「牡蠣豆腐」と「牛鍋」です。
「牛鍋」は牛鍋屋で働いていた中村玉緒演ずる主人公・朝吉(勝新太郎)の女房・お絹が朝吉と出会う場所として幾度も出てくる舞台。でもあまり「鍋」自体は映りません。
それよりも「続」の方で、お絹が自らの夫に好意を寄せる元女郎・琴糸(水谷良重)の居場所を知らせるのに
「牡蠣舟で待ったはりますわ」
と伝えるシーンの方が印象的で、このカットから変わった屋形船(提灯に「かき舟」と書いてあるのでこれが「牡蠣舟」らしいとわかる)のなかで朝吉が琴糸と語り合いながらつつくのがこの「牡蠣豆腐」。もっとも「それらしい」と見えるだけで「牡蠣」は出てこず朝吉が箸でつまむのは「春菊」(と思しきもの)と「豆腐」のみ。それでも焙烙の上に乗った土鍋から湯気の立つ映像は「来るべき冬には必ずや牡蠣鍋を食うであろう」と強く決意するに充分だったであります。
「牡蠣舟」。調べてみると今でも大阪・淀屋橋あたりに店があるそうですね。広島で新鮮な牡蠣を積んでそのまま淀屋橋あたりへ舟を着けて営業していたのが初めらしい。でもその数が減って今は一軒を残すのみという絶滅危惧種だそうです。一度行ってみたいなあ。
大阪、例の贔屓にして不振を極めるチームのフランチャイズ(ホントは兵庫ですが)があるにもかかわらず、あまり縁がないんですよね。いつか本気で攻めてみたい所存であります。押忍。
てなわけで今回はまだ季節でない牡蠣を取り上げるわけにもいきませんで、あまり画面に映らなかったほうの牛鍋を。
「すき焼き」じゃないですよ。牛鍋。砂糖・醤油でなく味噌で作ります。「秋の夜長に牛鍋食えば 文明開化の音がする♪」ときたもんだ。ホイホイ。
【Panjaめも】
●「悪名一番」(1963)
シリーズ8作目。最初が1961年製作なのにすごい製作本数だ。これはこれから見ます
●「牡蠣船」解説
オイスターマイスターによる牡蠣百科のページ。
そんなものがあるたぁ知らなんだ(笑)。しかし行ってみたい