第52回 洋楽編 Yngwie Malmsteen――脅威の速弾きでやってきた”狂気の天才”

しばらく続いていた編集部からの「お題編」がいったん終了しまして、今回からは久々のikkieチョイスによる「洋楽編」でございます。マニアックなアーティストもどんどん紹介していきますよう。さて、今回取り上げるアーティストは「イングヴェイ・マルムスティーン」でございます! オリコンで1位になったこともあるので、それほどマニアックではないけども、一般的にはあんまり知られていないよね?

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若かりしころのイングヴェイ・マルムスティーン。
今はだいぶお太りになられています……
イングヴェイはスウェーデン出身で、80年代初頭、まだ10代のころに才能を見出され渡米します。そして、まずは「STEELER 」というインディーズバンドに参加(すぐ脱退)。凄まじいテクニックでLA界隈にその名を轟かせると、元RAINBOWのグラハム・ボネットの結成した「ALCATRAZZ 」に参加(すぐ脱退)。ヴァイオリンのようなクラシカルなフレーズを、それまでの常識を覆すようなスピードで弾きまくるスタイルには誰もが度肝を抜かれ、またたく間にロックシーンの寵児となったようです。なったようです、というのは、この辺はまだリアルタイムじゃなくて。俺は「イングヴェイ後」の世代だったから、速さにそれなりの免疫があってねえ。驚きはしたけど、リアルタイムで聴いた人たちの驚きはもっと凄かっただろうし、ちょっと悔しい。これ、60年代や70年代のアーティストについてもいつも思うんだけど。

イングヴェイが登場したころのロックギターシーンを思うと、ほんとに衝撃的だったんだろうな、と思います。速さだけで言うならそれまでの倍ぐらい速いし、クラシックの取り入れ方にしても、ここまで徹底してやった人はいなかったんじゃない? あ、そうそう、イングヴェイが登場してネオ・クラシカルというジャンルが出来ちゃったんですよ。既存のジャンルに当てはめられないぐらい、個性的だった。リッチー・ブラックモアの影響は見え隠れ(見え見え?)してたけど。

俺がイングヴェイを初めて聴いたのは、ギターを弾き始めたころで、そのころのイングヴェイはワガママだのビッグマウスだのと散々な評判だったんだけど(笑)、とにかく上手い、とも。で、そんなに上手いなら……と、一枚目のソロアルバム を聴いてみたんだけど、当時はよくわかりませんでした。アルバムのほとんどが歌の入っていないインストゥルメンタルで、そんなのそれまでに聴いたことがなかったということもあるけど、延々と続くギターソロが当時の俺には速いだけにしか聴こえなくて、すぐ飽きちゃったんだよね。こんな弾き方スゲえなあ、とは思ったし、ギターキッズとしては速弾きに興味もあったけど、正直なところ、トゥーマッチ(笑)でした。

それと、当時は「速弾き=悪」というような評価もロックシーンにはあってね。俺は、全部が全部「悪」だとは思っていなかったけど、あんまり良く思ってなかったかなあ。速く弾けなかったやっかみもあったけど(苦笑)。でも、実際、ギターソロはスピード競争みたいになっていて、ただ速いだけのギタリストや、イングヴェイのクローンみたいなギタリストも多かった。また、そういう人って曲がつまらないんだ。で、そのクローンギタリストたちの分も聴いてるから、イングヴェイっぽいプレイには食傷気味でねえ。あれ、それはイングヴェイのせいじゃないな(笑)。

とにかく、あんまり好みではなかったんだけど、自分のギターの腕が上達してくるにしたがって耳も肥えてきてね。改めて聴いてみると、この人ったらほんとに凄いのよ。今となっては、世界中のギターキッズ……どころか、プロのギタリストまでもがこぞって彼をコピーしたのもよくわかる。速弾きの正確さは驚異的だし、微妙なニュアンスを表現するタッチの素晴らしさ、感情表現に直結するチョーキングやヴィブラートの美しさは、ロックギター界随一と言っていいほど。どうしても速弾きに注目が集まるけど、それはあくまでも彼の表現方法のひとつ。イングヴェイは見事にギターを歌わせることが出来る人なのでした。個人的には、生々しいのに手触りが冷たいという、楽曲の空気感も特筆したいところ。

ロックの世界では、技巧的であることがたびたび批判されるけど、優れた技術は大きな武器になるはず。出来ないことが減るわけだから、表現の幅が広がる。これは音楽だけじゃなく、絵だってなんだってそうじゃないのかなあ。まあ、優れた技術があっても、音楽的に使えない人も多いのかもしれない。技術を磨きながら技巧に走らず……これは俺の課題でもあるなあ。イングヴェイみたいな技術はないけど(泣)。

ところで、バンドの元メンバーが「『天才と狂気は紙一重』と言うが、イングヴェイにはその違いすらない」との証言をしています(笑)。破天荒と言えば聞こえがいいけど、噂が本当ならちょっと近寄りたくない(笑)。まあ、はたから見てる分には面白いし、それもロックスターとしての魅力と言える……のか!?