もう松の内も過ぎましたが、こちらでは本年初のお目もじ。皆様、あけましておめでとうございます。本年もドンゾよろしゅう。
しかし寒いですね。「温暖化」はどこへ行ったんでしょう。とはいえこうしたキリッとした寒さは案外好きで、そういう季節に思い出すのが落語のこんなマクラ。
友達同士、おしゃべりをする女房二人
女A「お前さんとこのあの人、なんか見込みがあって一緒になったのかい?」
女B「見込みなんぞあるもんかね、あんなヤツ!」
女A「じゃぁどうして一緒ンなったのさ」
女B「だって……寒(さぶ)いんだもん……」
いいですねぇ。志ん生師匠がいくつかの噺で使っているこのマクラ、名作だと思います。こんな風に四季折々の風景や描写が落語にはよく出てくるもので、先日の年末から新年、年をまたいで上下2席に分けて伺った柳家さん喬師匠の「雪の瀬川」にもそんな描写がたっぷりと挿入されていました。
噺の終盤、夜の早い時代のこととて真っ暗な江戸の街を夜更けに降り始めた雪が静かに覆っていく様子が目に浮かぶようで、雪が降る音を表す太鼓の鳴り物も入って思わず聴き入ったものです(詳しくは文末にリンクを貼った師匠のCDでどうぞ)。
しかし歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」や「櫓のお七」などでも使われる、あの雪が降る音を表現する「雪音」と呼ばれる太鼓の音。そのたたく速さによって降っている雪の量がわかる、というのがその表現力の巧みさです。それが速ければ激しく、ゆっくりならしんしんと降るように聞こえる。ずいぶん前、こういった演目を旧歌舞伎座で初めて見物したとき「確かにそう聞こえる」ことにたいそう驚いたものですが、でもそれは日本人の耳ならではのことかもしれません。
たとえば西洋の芝居で雨の降る音や雷の鳴る音など、リアルな現象をSE(効果音)として再現するのは聴いたことがありますが、もとから「ない」ものを再現したこの日本ならではの発想には敬服することしきり。しかもこの夜聞いた高座では「ビジュアル」も「音」もない「闇夜に静かに降る雪」を想起させたわけですから、大変まれな音と話芸のコラボレーションといってもいいでしょう。
こういう「冬」を耳で聴いたあとにはどうしても温かいものを食べたくなるのが人情というもの。充分に温かい焼鳥屋の店内で呑む酎ハイのお供は「湯豆腐」ということになりました。
で、その湯豆腐。一般に店では「ポン酢」を添えるところが多いんですが、僕の場合家で作るときには豆腐の泳ぐ土鍋の中心には葱とおかかを入れた出汁醤油の「たれ」の器を据えるのが常。温まった豆腐を皿に取ってその「醤油味のおかか葱」を載せるもよし、豆腐をその中に入れて1〜2分、ほんのり醤油色に染まった熱々の豆腐をハフハフと食べるのもまた一興です。土鍋の中に豆腐がなくなったら下に敷いてあった昆布を出してその「たれ」をお湯の中に注いで薄ければ味を足し、そこへご飯を入れて雑炊にするのが家風。
これは僕が生まれ育った東京城北部の地域性なのか、またその地で育った母の好みだったのか、その辺り判然としませんが、もし気が向かれましたらぜひ一度おためしください。あんがい「B級的」でおいしいですよ。
今回はそんな「冬の描写」でご機嫌を伺いましたが、「かんたんレシピ」としてもう一品、冬野菜の雄「蕪」を使った「かんたん蕪鍋」もおまけに付けてまた次回。これも「母直伝」の味でございます。
【Panjaめも】
●五代目古今亭志ん生「厩火事」
この盤に例のマクラが入っているかどうかは未確認。でも併録されている演目がどちらも好きな噺なのでお勧めです……って、なんとHMVにはもう在庫がなかった。amazonで急げ!
●柳家さん喬「雪の瀬川」
たぶん僕が聴いた高座の録音だと思います。しみじみしたいときにはぜひどうぞ