1968年に公開されて以来、多くの映画ファンに愛されるのみならず、才器あふれるクリーエイターたちにもインスパイアを与え続け、異なる角度から何本ものリメイクがなされてきた『猿の惑星』。本作は、その「猿」が生まれるに至った経緯、原点をドラマチックに描きあげた傑作だ。
製薬会社ジェンシスの研究所に勤める若き神経科学者、ウィル(ジェームズ・フランコ)。とある事件をきっかけに、実験用チンパンジーの赤ん坊を預かることとなった彼。その子にシーザーという名を付けて人知れず育てていたが、その知能の発達には目覚ましいものがあった……。
これはもう、圧巻というしかない。ひところに比べればCGの技術が格段に向上した今、猿たちのぎこちない動きなど皆無だ。『アバター 』や『ロード・オブ・ザ・リング 』3部作でも使用されたWETAデジタル社による技術パフォーマンス・キャプチャーを、『キング・コング 』(05年)のコング役であり、またこの分野の第一人者である俳優のアンディ・サーキスが駆使し、本物以外の何ものでもない猿を演じきる。その表情たるや「豊か」などという言葉が陳腐に思えるほどのクオリティで、言葉を発しない猿の気持ちの奥の奥までを如実に表している。
また、あれほどまでに迫力あるシーンがありながら、本物の猿は一匹も出演していないのだ。これはもう、奇跡としか言いようがない。本作がハリウッド・メジャー進出作となった監督に脱帽だ。
優れているのは技術だけではない。猿の父ともいえるウィルとシーザーが心を通わせ、ときにはウィルにも答えられない哲学的問いかけまでするシーザー。猿同士という動物社会にも関わらず、人間社会の縮図のような軋轢に悩まされるシーザー。内容は深いながらも、子供から大人まで万人が楽しめるストーリー展開や丹念なディテールだからこそ、「2011年度のベストフィルム」とタイム誌ほかの各誌も絶賛しているのだろう(まだ2011年は終わっていないが)。
シリーズ特有の「人類への風刺」も、本作では後半のクライマックスに如何なく表現されている。人間は「あること」をするのに、猿は決してしない。
生物のヒエラルキーのトップから崩れ落ちたその原因に心から頷ける観客は少なくないだろう。綺麗ごとと言われればそれまでだが、これこそが本作が言いたかった根幹なのだ。
監督:ルパート・ワイアット
脚本:リック・ジャッファ/アマンダ・シルヴァー
出演:ジェームズ・フランコ/フリーダ・ピント/ジョン・リスゴー/ブライアン・コックス/トム・フェルトン/アンディ・サーキス
配給:20世紀フォックス映画
公開:10月7日(金)、TOHOシネマズ 日劇他 全国ロードショー
公式HP: www.saruwaku.jp
©2011 Twentieth Century Fox Film Corporation