スパイスティーの店では「スパイスマイスター」が、
様々なスパイスを絶妙のバランスで調合する 中国・長安(現・西安)から始まり、途中幾度も分岐しながら、ローマにまで至る“絹の道”シルクロード。
ここブハラは、かつて東西の粋が行き来したその交易路の中心として栄えた街だ。
そのシルクロードで、長きにわたり取引されてきた重要な品目のひとつがスパイスである。インドネシアのモルッカでのみ産出されたというクローブやナツメグ、インド東海岸やスマトラ島の特産だった胡椒をはじめ、多くのスパイスが、ときには中国から天山山脈を越えて、またときには海のシルクロード「南海路」を通って東から西へと運ばれた。
スパイスの歴史は長い。胡椒の産地として知られるインドでは、紀元前3000年ころからいくつかのスパイスが様々な用途に用いられたと考えられているし、古代ローマの時代にはすでに香辛料貿易が行なわれていた記録が残る。
スパイスは、味や香りを楽しむ目的以上に、食材の保存のために欠かせなかった。クローブや胡椒などには高い殺菌力があり、食材の腐敗を防ぐ。ヨーロッパでは、東から届くスパイスの取引で主導権を得ようと、熾烈な争いが繰り広げられてきた。ヴァスコ・ダ・ガマの喜望峰回航、クリストファー・コロンブスのアメリカ大陸到達など、海洋冒険史に残る偉業の多くは香辛料貿易の新たなルートを拓く目的を帯びていた。
スパイスとハーブをブレンドした
“スパイス・ハーブティー” 近世以降は、各地でスパイスが産出されるようになり、貿易上の重要性は薄れたが、ここブハラではかつての交易品を使った様々な製品がつくられている。なかでもシルクロードの名残を強く感じさせるのが、スパイスをふんだんに使ったお茶、“スパイスティー”である。日本でも近年のお茶ブームも相まって、スパイスを使ったお茶も珍しくなくなってきている。しかし、シルクロードの中心で飲むスパイスティーはまた各別だ。
街歩きに疲れた暑い昼下がり、スパイスティーの名店とされる茶屋に入ってみた。スパイスとハーブをブレンドしたお茶、サフロンのお茶、ジンジャーのお茶など、種類も豊富だ。
スパイス・ハーブティーは、
一口飲んだだけで体が温まってくる 店員さんのオススメ、スパイス・ハーブティーをオーダーする。整腸や血行促進、安眠など、様々な効用があるというお茶は、ほのかなハーブの香りとスパイスの芳ばしさが混ざり、匂いを嗅ぐだけで心が落ち着いた。
一口飲むと、スパイスの効用か、体中を熱さが駆け巡る。ハーブのすっきりとした爽快感と、スパイスのピリッとした辛味が見事に調和している。一杯飲み終わるころには体中から汗が噴き出していた。べっとりとした不快な汗ではない。サウナでかくような、爽やかな汗だ。
吹き抜ける乾いた風が、心地よい。心なしか、体が軽くなったような気もする。
このスパイスティー、シルクロードの残り香を感じさせるお土産としても人気がある。来客があったときにも、会話の種になるだろう。僕も一袋購入して店を出た。
スパイスティーは元来、冬の間、風邪を予防したり、体を温めたりする目的で飲まれることが多いという。しかし、暑い夏、スパイスの効用ですがすがしい汗をたっぷりとかくのもまた、気持ちがよいものだ。