遭難ですよ、これは!!
4月9日
「雨乞いしたんじゃないの?」
どうもこのところ土日のたんびに天気が悪い。
小淵沢集合時ぼそぼそ降り出した雨は時間経過で本降りになり、美濃戸口の赤岳山荘で様子見するも、一向に止む気配もなかった。
1.雨の中、決行する
2.赤岳鉱泉へ上がって、あす石尊稜を行く
3.今日は停滞して明日日帰りする
本郷さん提示の3選択肢。メンバーのTさんが「1」を押し、少し小雨になったところで出発した。
幸いなことに、船山十字路から歩き出し林道から急登にかかるあたりで雨はあまり気にならないほどになり、いや、もしかしたら「これでもか」と続く急な雪斜面をワカンで歩くのに必死で、暑くて身体からは湯気が立ちそうだし、ジャケットの中は汗だくでシケシケだから、多少雨が当たっても、何が何だか判別不能な感じだったと言った方が正確だろう。
すまして座った猫の背のような、かなりな急斜面。それが延々と続く。ふくらはぎはメリメリだし息が上がってヒーヒー。降ってなければ長袖1枚で歩くところだが、そうもいかずジャケットの内側に熱気と湿気がこもって気分が悪く、もう少しでテント場と聞いて「ほッ」としたとたん吐き気に襲われた。もうくたくた~!な5時間歩行。
4月10日
4時過ぎに起きて6時少し前に出発。思ったより夜に冷え込んで、雪面はカリカリ。ペグの代わりに埋め込んだピッケルを掘り出すのにも一苦労。凍える手でパッキングしたりするのに案外手間取ってしまった。
昨日の雨降り悪天とは打って変わり上天気。
歩き出してしばらく、青ナギを過ぎ、いよいよ南稜にかかる。不規則で岩がち、もちろん急斜面が続く。足が思うように進まない。息が上がる。青空に映える白嶺をチラ見するも美しい山容に感動するゆとりもない。
「止まらない!」
飯島さんがぐいぐいロープを引いてくれるのだが、足がもたついて歩けない。ようやく10時ぐらいにふらふらで山頂に着く。思わず仰向けにひっくり返りたい衝動にかられる。
ここからが下山だから、少しは楽か?と思いきや、前日の5時間歩行と、今朝出発から山頂までの4時間歩行で体力を消耗してしまったのか、前腿の筋肉がグズグズで下りの1歩1歩が体重をちゃんと支えられない。膝から崩れ落ちそうになるのを堪えて次の足を出すのが精一杯。
あまりにものノロノロ歩きに業を煮やした本郷さんが盛んに檄を飛ばす。後ろから本郷さんがロープで確保し、前から飯島さんがぐいぐい引っ張るんだが、どうにか少しずつでも前に進むのでイッパイイッパイ。
そうなると「敏速な体重移動」ならすッと雪に乗りながら前進できるところを1歩ずつにズシンズシンと体重がかかるから、やっと2、3歩進んだかと思えば、ズボッっと雪を踏み抜いてしまう。足を抜くのに時間とエネルギーを浪費する。ますます歩けない。地獄のような悪循環。なんだか頭の芯がぼーッとしてくる。なんとも処置なしだ。
「だめだよこんなんじゃ、降りるまでに日が暮れちゃうよ」
「ザックはいいから、ちょっとでも早く歩いて!!」
船山十字路方面を指す道標の少し前辺りでついに引導を渡され、空荷でようやく歩く。
「あと40〜50分で下山」のはずなんだが、なかなか着かない。不規則な樹林帯の斜面は木の根が張りめぐり、根っこと根っこの間の土面に薄氷が張っていて、すこぶる歩きにくい。
「あッ!!!」
アイゼンが根っこだか薄氷面だかにひっかかかって、けつまずいた。
右肩からこけた。こけた斜面がきれいに薄氷がかぶっていた。滑った。
ぎゃー〜〜〜ッ!!!!
背中の下で斜面が滑る。いや、アタシが斜面を滑っている。
え?何?滑落?!!!
「止めろッ!!」
ってったって、頭が下で背中で滑り落ちている状況で、どうしようもない。
と、左側に木立がチラリ目に入った。が、左手ではつかまえられなかった。咄嗟に足を横に広げた。そしたら左腿に木の幹がかかった。
止まった。ほ。
滑り始めてすぐにだったから、落下速度もさほどになっていなかったのが幸いした。4、5mほど滑り落ちて止まった。
山頂が10:00about。下山完了が16:00だから、下山に6時間。一日の行程に10時間要したことになる。
「これはもう遭難ですよ!」
一緒に行ったメンバーも巻き添えにして迷惑をかけたのだから、大目玉にはうなだれて返答の術もなかった。
「このままなら、今後長いルート、ハードなルートの山には参加禁止」
翌日の本郷さんのメールの文面はそれは厳しいものだった。
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