ラブリーボーン

20100119145246picm.jpg14歳で殺された女の子の物語……こう聞くと何かオドロオドロシイものを想像してしまうが、まったくそんなことはない。むしろその「死後の世界」は、文字どおり「この世のものとは思えない」ほど美しいのだ。

1973年12月。スージー・サーモンは14歳の若さで無残にも殺された。肉体を離れたスージーの魂は、天国とこの世の中間の地から、地上の家族たちを見守っていた。彼女を殺した犯人もまだ捕まっておらず、そして何よりも自分の死によって家族たちがまだ苦しんでいるからだ。自分の思いを彼らに伝えようと必死になるスージーだったが……。
なんと言っても圧巻は、『ロード・オブ・ザリング』3部作を手がけたピーター・ジャクソンによる至極の映像美だ。スージーが訪れる天国の世界は特定の宗教の象徴じみた胡散臭い何かはまったくなく、スージーが生きていた間に体験した出来事や憧れていた事柄、好きなもののみで構成されている。私たちが眠っている間に見る楽しい夢のような世界だ。決して死を礼賛するわけではないが、こうした映像を見ると「悪戯に死を恐れることは損なんじゃないか」とも思えてくる。
ただ、そうしたドリーミーな映像のみならず、本作の中軸はいかに真の犯人を見つけ出していくかというサスペンスだ。

内面はキ○○イじみた、だがパッと見は温厚で誠実そうな一般人を装う犯人を演じるのはスタンリー・トゥッチ。この役を受けることを躊躇したというほどの、誰もが憎悪を抱くキャラクター。それになりきるため、彼自身とはかけ離れたメイクを施し、体毛までも染めたという。
スージー演じる主演の座を射止めたのは、『つぐない』(07)でオスカー助演女優賞にノミネートされたアイルランドの女優、シアーシャ・ローナン。本作で見せた透明感のあるその確かな演技力は、間違いなく今年いちばんの話題となるであろう。
そして個人的に特筆したいのは、その音楽である。
9割方はブライアン・イーノだが、挿入歌としてCocteau twins(コクトー・ツインズ)の『Alice』が使われている。オフィシャルのプロモーション映像でも流れているし、本編中でもかなり重要なシーンでの使用だ。美しくも儚く、そして少しばかりの不安を呼び起こすかのようなピアノのリフ、そして唯一無二のハイトーンボーカルによる、まさに天国のような旋律。何を隠そう筆者はプライベートではほとんどコクトー・ツインズしか聴かないというぐらいのコクトーファンなので、感慨もひとしおだった。

マーク・ウォールバーグが演じる真っ直ぐな父親も、スーザン・サランドンによるトンでるお祖母ちゃんも、レイチェル・ワイズの葛藤を処理しきれない母親も、ローズ・マックィーバの頭の切れる妹も、それぞれキャラが際立って素晴らしい人間ドラマにも仕上がっている。ファンタジー、サスペンス、ヒューマンドラマ、すべての要素が見事なハーモニーを奏でている本作。ラストはやややりきれない感もあるが、ぜひとも劇場でご覧いただきたい名作だ。

ラブリーボーン(Blu-ray)
ラブリーボーン(ハードカバー)
原作:アリス・シーボルト『ラブリーボーン』
監督:ピーター・ジャクソン
脚本:フラン・ウォルシュ/フィリッパ・ボウエン/ピーター・ジャクソン
出演:シアーシャ・ローナン /マーク・ウォールバーグ /レイチェル・ワイズ/スーザン・サランドン/スタンリー・トゥッチ
配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン
ジャンル:洋画
公式サイト:http://www.lovelyb.jp/

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