たった今から海堂作品を読み始めるとして、「おびただしい作品群をどの順に読み進めるか」については口角泡の物議をよそに「どうでもいいじゃん」とあえて言っておく。時系列を外して読んだとして、たとえ時に「え?何だ?!」と戸惑ったとしても、重ねて作品を読むうちに何もかもが解けていく瞬間を迎える。その、モヤモヤ後の胸のすく感じも結構いい。
むしろ時系列を積極的に外すという手もある。バチスタシリーズから田口・白鳥シリーズ及びその前後を全て時系列でやっつけると、中にキツくなる数冊がある。
「ほとんど会議の議事録か?」のような丁々発止のロジックの応酬の連鎖連続。作品を低通する海堂メッセージの根幹をなしていて、外しては全体像にいき着き難い。ってな作品は間に何かストリーテリングなのを挟みたい。
本作は時系列でいうとかなり遡上位置にあるが、そのドラマ性においていうなら海堂作品中、最も秀逸な部類に間違いなく入る。謎めいて古風。美しくて恐怖する医療サスペンス。早い展開に時を忘れても、読後きっちり心底に落ち積もった「真実」を見る。著者の1本通った理念、死生観はきちんとドラマ性を追求するあまり荒唐無稽に陥ることを退けている。良質で旨い料理で腹を満たした満足感は実にいいものだ。
ただし…
「アリアドネの弾丸」だけは必ず本作の後に読まれたし。
順番こをたがえると「ゾクッと感」が3分の1減…
作者名:海堂 尊
ジャンル:小説/医療サスペンス
出版:角川文庫