小気味いいスピード感、チャーミングな舞台設定のミステリーといった桐野作品に対する既成概念を捨てなければならない。
空恐ろしい作品。読み終えて、ブツブツと鳥肌立った皮膚が治まるのに時間を要す。何かの折、ふと作品中のシーンを妄想していることに気づき、またゾワゾワ逆毛立つ。
特殊な状況設定、緻密な構成や鋭い分析に導き出されるリアリティーが故ばかりではない。何よりも内側に眠っていたものとのダブルイメージに恐怖する。
作品中にくり広げられた妄想界に無数に埋め込まれた「あらぬ」ものは、気がつけば読む側の意識の壁を突き破り、潜在下のドブをかき回す。封印されることで「平静」を保っていた「ドブ」が発酵を始め悪臭を放つ。その悪臭に身の毛がよだつのだ。
「ミステリー」であるとかないとか、そんなことはなんの問題にもならない。虚構が虚構を超え、真実をも突き抜け、読む側の「病み」と「闇」の封印をもこじ開けてしまう。これほど怖いことはない。
なぜなら、何が怖いかって、「己」が最も恐ろしい。「己」を最も知っている「己」にこそ心底恐怖するのだ。
もう、ダメ!
ショック!!!
作者名:桐野 夏生
ジャンル:小説
出版:新潮文庫