月のしずく

96年から97年にかけて文藝雑誌に掲載された7編を編んだ短編集。

ちょっと疲れてしまって休息が欲しい時がある。
さりとて布団に潜り込んで惰眠をむさぼる気にもなれず、体を休めながら「読書」でもいかな、そんな時。

読み進めるにつれ頭がさえて、引きずり込まれて夜が明けるのも忘れてしまうようなんじゃなく、かといって退屈せず、ゆったりと心地よく時の流れを楽しめて、よしんば途中で睡魔に襲われたとしても、本を手にしたまま寝てしまえる。
そんなふうに1編ずつ読み進めた。

「厳しい現実」の一端もあり、松原を抜ける潮の香、一昔前の商店の軒下の薄暗がりや、ちょっとこそばゆい「愛」の定義、さもありなんエキゾチックなエトランゼ。
いつだったか、どこかで見たような、それらのイメージに包まれて、素直にほんわりと気持ちが和む。

原色は使わない、利き色でストレスを与えないパステルな作風は、「物足りない」と思う向きもあろうが、状況に合致すると心地よさにも通ずる。

「物足りなさ」を脇へ置いとくとよい。お世辞でもいいから、誉めてもらい時だってあるじゃない。そんな時はすすんでお世辞をいただきましょう。
休みたい時は、すんなりとなごみましょう。

そうやって時間をかけて読む。

枕もとにオススメの一冊。


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作者名:浅田 次郎
ジャンル:ミステリー
出版:文春文庫

月のしずく(文春文庫)