まず本書を開いたとき、字の大きさや漢字のふりがな付けの多さに気が付く。その後、裏表紙を見てみると「小学上級から」とのタグもあった。
そう、この本は小学生など小さなお子さんに向けられた、これから歩んでいくべき道への指針となる「世の中への扉」というシリーズの一冊で、富士山のツアーガイドである著者のガイドになった経緯や体験などがまとめられている。
一読してまず思ったのは、「これは大人も読むべき本である」ということだ。
これはあくまで私見だが、小説だろうとコラムだろうと報告書だろうと論文だろうと、文章なんぞ小難しく言い回すよりは平易であるほうがいいに決まっている。その点で本書は、小さなお子さんをメインターゲットに書かれているので、当然ながら文章は平易で読みやすい。そして記されている内容は、たとえば成人向けの“職業的自伝”があるとして、それに劣ることはまったくない。大げさな言い方をすれば「大人の鑑賞に問題なく堪える“小学上級から”本」なのである。
序章「なぜ、富士山に登りたくなるのか」から始まる本文は、章ごとに著者がガイドになったきっかけや富士山の歴史、巷間言われる登山とゴミの問題、そして著者のこれからの夢などが綴られているが、これらをすべて貫いているのは「富士山がいかに魅力的な山か」という一点。富士山とともに生きているガイドが語るその魅力は、読むものにいかに富士山が日本人に根付いていてまた素晴らしいものかを再認識……いや、新発見も多いので「認識」か、認識させてくれることは間違いない。そして同時に著者の深い“富士山愛”も知ることができよう。
ガイドを始めた当初は、(悪い言い方をすれば)“お客さんを従わせるガイド”だったという著者が、“おもてなしの登山”ガイドになっていく奇跡的な出来事や、体験談も読んでいてとても興味が惹かれる。まだ7月も中旬、本書を読んだその足で、富士山に登りたい、そして著者のツアーに参加したい、そう感じる人が続出する予感である。
最後に、“おもてなしの登山”ガイドに変身するかしないかのときに著者が案内した未亡人。このエピソード、自分に重ねて目頭が熱くなる人もきっと多いことだろう。なにしろ私がそのひとりである。ホロリと涙。
作者名:近藤 光一
ジャンル:自伝
出版:講談社
ぼくの仕事場は富士山です
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