『温かすぎて、切ない……』
初めての感情に思わず涙がこぼれてしまった。
雑誌『ミセス 』にて約2年にわたって連載されていた、親子の何気ない日常のエッセイ。まるで絵本を読んでいるような、詩集を読んでいるような……さらさらっと読めてしまう一冊。
もともと、よしもとばななの作品は読んだことがあるはずなのだが……。彼女にもう8歳になる一人息子がいるのは知らなかった。この人が子育てについて書いたらどう表現するんだろう……?
そう思ったのがこの本を手に取ったきっかけだ。読んでみると見事に当たりだった!いわゆる、よくある「親子の感動物語……涙」っていうのとまったく違う。とにかく温かくて、温かすぎて、切ないのだ。
わが家の一人息子はやっと1歳になったばかり、まだ言葉は話せない。それでも、一生懸命たくさんの気持ちを伝えてくる。言葉を話すようになったら、もっともっと伝えてくるはずだ。どんな声なんだろう? どんな言葉を使うんだろう? いろいろ想像してしまった。
この本の中で、よしもとばななは一人息子を“チビ”と呼んでいる。このチビくんの言葉は子供とは思えない、けど子供だからこそ出てくる。そんな言葉でいっぱいだ。子供って大人が思っているより、ずっとずっといろんなことを感じているのだ。このチビくんの言葉が切なくて、周りの大人たちとのやりとりが温かくて。読み終えるまで始終涙がじわり。
あちこちに『温かすぎて、切ない』シーンはあるのだが、その中でも
いくつかある私の好きなフレーズたち。
「人がいつまでも恋愛にあこがれるのは…小さいときのあったかい気持ちをもう一回味わいたいって…」
「この世でいちばん好きな人から、無条件に愛され与えられるぬくもりを求めてる…」
「幻じゃなくてよかった。この人たちを知らなかったらわからなかった」
「…子育ては切ないのだ」
まるで恋愛のフレーズみたいだ。
母と息子だからこその温かい感情がこの本には詰まっている。私もこの先、わが家の息子が成長する過程でまた読み返すことになるだろう。
作者名:よしもと ばなな
ジャンル:エッセイ
出版:文化出版局