ブレイブ・ストーリー

直木賞を受賞した『理由』(朝日文庫)などのミステリー、『ぼんくら』(講談社文庫)などの時代小説、さまざまなジャンルの名作を残している作家・宮部みゆきは、かなりのゲーマーなのだそうだ。年間360日はコントローラーを握っているらしいが、そのためにちゃんと「執筆は○時から△時、そのあとはゲーム」というような時間割を組んでいるとか。キッチリ仕事にシッカリ計画。大人ゲーマーはこうでないといけませんな。

さて、そんな宮部みゆきについて、「ホントにゲーム好きなんだなあ」と思わせる作品がこの『ブレイブ・ストーリー』。作家の趣味が題材になっている作品は数あれど、本作はまんま『ドラクエ』やら『FF』やらのゲームです。
普段生活をしている現世(うつしょ)から、ひょんなことからファンタジーな世界である幻界(ヴィジョン)に行ってしまった主人公・ワタル。最初は弱っちい主人公だったのが、トカゲやらネコやらが擬人化した仲間とともに砂漠、洞窟、船、悪そうな帝国、魔界からの襲撃などなどをくぐり抜けながら成長していき、最後はライバルであるミツルと対峙する——
……ほら、まんまでしょ(笑)。『ドラクエ』くらいならやるというゲーマーならば、あっさり物語に入っていってしまうこと請け合いで、また半端なゲーマーではない人の作品なので、“クソゲー”ということもなし。紹介記事の段階や買ったそばからイヤな予感がするゲームをプレイするくらいならば、ワンシリーズ(文庫3巻。ほかに愛蔵版などもあり)を揃えて読んだほうがハズレないでしょう、たぶん。
もちろん、ゲームにまったく縁がない人でも、「ファンタジー小説である」というモードにさえ入ったら、世界観などまったく問題なく理解ができる。難解だったりゲーム世界独特の表現や言い回しなどもなく、いい意味で平易な文章で進んでいくので、大人からジュブナイルまで幅広い世代で楽しむことができるだろう。

夢や友情、勇気、愛にはたまた欲望に野望。登場人物に感情移入を始めると、そんな感情がこちらにも伝わってくる。ゲームとか『少年ジャンプ』ってそんなだったよね。それら感情を受け止めたい人、また懐かしく感じたい人はお手をどうぞ。
ちなみに。私は序盤から登場する“刺蘭のカッツ”に感情移入して……いや、「カッツさんが仲間にいる」という事象に感情移入しすぎて、いろいろな意味でもうメロメロになってしまいました(笑)。カッツさま〜 !

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作者名:宮部 みゆき
ジャンル:ファンタジー小説
出版:角川文庫

ブレイブ・ストーリー(上)(角川文庫)