場内撮影禁止なので、
せめて看板をわが家の本棚を一角を占める、新潮文庫の黄色い背表紙たち。番外編も含めて全19冊、もう何度読み返したかも覚えていない、池波正太郎先生の『剣客商売』シリーズです。
『鬼平犯科帳』ともどもテレビドラマ化されているこの『剣客商売』は、藤田まことさん演じる老剣客、秋山小兵衛(老、なんて書くと怒られますね。負けなしの剣客で、しかも40歳も年の離れた若〜い奥さんがいるという愛嬌あるステキな爺さまです)をご存じの方も多いはず。
さて、そんな池波先生LOVERなら一度は行ってみたい「池波正太郎記念文庫」なるものが池波先生の地元・浅草にあるということで、地下鉄を乗り継いで行ってみました。
同じく剣客ファンのわが奥さまと連れだって出かけたのは、すっかり日も暮れたある休日の夕方。キッチンアイテムの聖地「かっぱ橋商店街」のはずれにある台東区立図書館、この立派な建物の1階に、コンビニほどの広さの堂々たる記念文庫が併設されています。池波先生の大きな顔写真に、直筆の署名をモチーフにした看板。図書館の中でそのエリアだけ空気が違うんですよね。重厚感漂う、というか。
レアな池波グッズの数々を発見。
ムコ殿は先生直筆『剣客商売』『鬼平』
イラスト入りのクリアファイルを購入
ショップのレシートの広告も気が利いてましたまあ、それもそのはずです。この記念文庫には、数々のお写真や直筆の原稿、作品のアイデアが走り書きされているノート、愛用された歴代のパイプなど、先生が実際に手にしていたものが所狭しと並んでいるんです。
そしてムコ殿が釘付けになったのが、椅子や机、本棚から小物まで忠実に再現された先生の書斎! 机の上には、書きかけの原稿とともに万年筆や缶入りのピース(やっぱり文豪はピースなのだ!)が転がり、かわいらしいワンコの手ぬぐいなんかもチラリとのぞいてます。これらはすべて先生の奥様が台東区に寄贈されたもので、本当に貴重なコレクションの数々、無料で拝見するのが申し訳なくなりました。スタッフの方にうかがうと、「ファンの年齢層は本当に幅広いですよ。テレビで池波先生の作品が放送されているときはとくににぎわいますね」とのこと。
先生直筆、『剣客商売』の登場人物たちの設定メモまで展示されていて、大好きな作品のルーツに触れることができすっかりいい気分のムコ殿。せっかく1月の寒空を浅草まで出張ったのですから、「このまま帰るのも野暮だねぇ」と、下町グルメの顔、もんじゃ屋さんで暖まっていくことにしました。
シュっと細いグラスで飲むビール。
浅草で食べるもんじゃ焼きもまた格別です話はかわって、池波先生のエッセイに『男の作法』という1冊があります。その昔、食通の先輩からすすめられて夢中で読んだその本には、食や酒、仕事論にはじまり、池波正太郎の生き方のこだわりがびっちりと書き連ねてありました。
なかでもムコ殿が強烈に覚えているのが、ビールの飲み方でした。「小さくてシューッとしてる」グラスに1/3くらいずつ入れて、「自分のペースで飲んじゃ入れ、飲んじゃいれするのが一番うまい……」という一節。
そのまま夜の雷門へ。
ライトアップされていて記念写真を撮る人がひっきりなしそして。その夜、のれんをくぐった浅草のもんじゃ屋さんでも、見事にシューッと小さいグラスが瓶ビールとともに運ばれてきたんです。なれた手つきでもんじゃの"土手"をつくる奥さまの手もとをぼんやり眺めながら、ビールを飲んじゃ入れ。トッピングのベビースターをポリポリとかじりながら、飲んじゃ入れ。 池波先生が暮らし、鬼平や秋山親子が生まれた街で、ムコ殿の"よい匂いのする一夜"は更けていきました。