【No Train,No Life】駅舎ばかりが別れでなくて【祝・東横線副都心線直通】

明日3月16日、東急東横線と東京メトロ副都心線の直通運転が開始される。

これにより横浜エリアから副都心線を経由して西武線の所沢や飯能、東武線の川越など埼玉の東西エリアまで乗り替えなしで行くことが可能になる。副都心線内も新宿三丁目や池袋などに停車することから、通勤通学レジャーにと利便性が大幅に向上することは間違いない。

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ヒカリエ側から見た現在の地上ホーム外観。
ここも多くの人が記念撮影に励んでいました
間違いないが、同時に大きな心配のタネとされているのが「新・渋谷駅の混雑状況」。12日に公開されたモリモト・パンジャ氏の『はいコチラ、酔っぱライ部』に詳しいが、これまでは“1階上(もしくは下)”でしかなかった東京メトロ銀座線やJR山手線との乗り替えルートが、副都心線のホームである地下5階に移転することから“7階上”などということになり、また京王井の頭線が顕著だが距離もそれぞれ遠くなる。銀座線に乗り換えるなら東横線・副都心線と同じ地下ホームの半蔵門線を利用するというお客さんも増えそうだが、半蔵門線は東急田園都市線との共有ホームでもあるため現状でも軽い混雑状態にある。そこに元々は銀座線のユーザーが流れ込んだら……。
とまあ、どうなることやら、と思い浮かぶことはたくさんあるが、新しいことが始まるときには不評も混乱もつきもの。「習うより慣れろ」の感覚でまずは新ホームからの道程を楽しもうと思うのだが。

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明治通り、渋谷警察の前にも新しい出入り口が。
16日に向けて着々と新規施設も完成中
さて、新ホームができあがれば旧ホーム、地上2階にある現在の東横線渋谷駅のホームは今日の今日で廃止となる。
地上ホームができてからなんと85年。筆者も現在の丸4年、かつても1年通ったから合計で5年、通勤だけでお世話になった。会社帰りに朝まで酒を飲んで電車に乗り込み、生まれて初めて乗り過ごしたのもこのホームであり、買ったばかりの磁気定期券を線路内に落としてしまい、改札まで飛んで戻って助けを求めたのもこのホーム(駅員さん、線路内に降りることなく、先に両面テープを付けた棒によって回収。生活の知恵)。先の東日本大震災の翌朝、茫然自失で電車に乗り込んだのもここだ。一抹の寂しさはもちろんあるが、様々な思い出とともに、心から御礼申し上げたいと思う。ありがとう。

そんなことを思っていると、ふと15日に最後を迎えるのはホームだけでないことに気が付く。現在の渋谷駅に附属している施設、2階改札を入ってすぐと1階改札(南口)にあるサプリメント系の健康食品ショップ、そして2階改札外と1階改札内にある売店。これらは地下ホームに移転することなく閉店となる。
「早いわね。あと1カ月でここも……」
そう南口売店のおばちゃんが言ったのはまさに2月15日のことだった。地下へ移転されないのですか? そう聞くと移転はせずにそのまま閉店すると言う。今日もお疲れさま、その言葉とおつりを受け取ってホームへ向かった。
再び渋谷に通い始めたこの4年、帰りにはたいていこの売店で夕刊を二紙買っている。店員さんは何人もいて、毎日のように寄るのだからそれぞれに顔は覚えており、それもあってかみなさん一様に愛想がいい。中でも冒頭のおばちゃんは、寒いわね暑いわね明日からはお休みですか、と毎回なにかしらの言葉を掛けてくれた。人によっては余計なことだとはわかっている。でも、それでホッとする自分はいるわけで――。

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16日からは元町・中華街方面行きとなる副都心線渋谷駅4番ホーム
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1階にある南口改札。
右奥が思い出となった売店
あと10日だもんねえ早いねえ、そう今月5日に言っていたおばちゃんは11日の夜にも売店にいた。
「今日で最後なんですよ」、お金を受け取るが早いかそう言ったおばちゃんは、おつりを手渡しながらこう結んだ。
「これまでありがとう。元気ならばまたどこかの売店で……それも変ですけれど、元気だったらまたどこかで人は会えますからね。どうか元気でいてくださいね」
いえいえ、こちらこそ――。それしか言葉も出ず、ホームへの階段を上がった。たかだか駅の売店での話じゃねえかよ、なんて強がりながら。

そこには日常があり、安らぎがあった。
85年の駅舎だけじゃない。人との別れも、ここにある。
東横線渋谷駅。旅立ちの、前に――。