梅雨明けには至っていないものの、気が付けば真夏日が当たり前になってきた今日このごろ。桜丘の坂を上がるのも汗を拭き拭き一苦労、こんなときは郷に入りては郷に従え(?)で暑い国の料理でスタミナを補給しましょうか。
いつもの中央通り(仮称)を登り切り、今度は桜丘郵便局方面へ降りていく。かつて登場した『CUJORL』や『石橋・西村 国際特許事務所』がある鶯谷町との境界線となるこの通りは、かつて西郷隆盛が中央官庁に向かった道として“西郷さんの馬車道(桜丘の再開発計画書などにも「西郷馬車道通り(仮称)」とある”と呼ばれていた歴史がある。
そこに店舗を構えるインドネシア・バリ島の料理店へ今回はやってきた。バリ島の中でも芸術の村として知られるウブドのメインストリートの名前を取った『Monkey Forest』だ。
「おお、今日はようこそいらっしゃいました。もうお料理などは準備しておりますから、言っていただいたらご用意いたします!」
そう熱烈歓迎してくれたのは、故郷の京都から出てきて早40年、その間バリをフィーチャーしたお店など20店舗弱を運営してきた名物オーナー・長濱吉憲さん。お出迎えいただいたテンションよろしく、腰を降ろすや否や止まらないそのその歴史と経営方針のおはなし、どうぞノンストップでご覧くださいませ。
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まあまあ、まずはお茶でもどうぞ。こちらはインドネシアのコーヒーで『バリコピ』ですね。コーヒーの粉が浮いてますから、これが沈むのを待って静かに召し上がってくださいね。
このお店ですか? もう5年ですね。僕自身はこの仕事を始めて……もう40年。実家は京都で工場をやっていまして、やはり親ですよねえ、僕に継がせよう継がせようとしておりましたが、ここが僕の偉いところで(笑)、“違う空気を入れなければダメだ”と思いまして、いまは義理の兄弟が継いで立派にやっていますよ。
僕は京都で、あの『スクール☆ウォーズ』で有名な伏見工業高校におりました。ラグビー部に山口良治監督が来るのは僕より3年ほど後ですね。僕? 僕は水球をやってました。ドラマだとかなりヒドい高校になってました? いや、アレよりヒドかったですよ(笑)。バイクで廊下を走るシーンとかホントにありましたから、ハハハハハ。そんな高校で運動部ですからね、根性は付きましたよね、やっぱり。
そのあと東京に出てきまして……と言っても何かアテがあったわけではないのですが、六本木の有名なインドネシア料理店『ブンガワン・ソロ』にアルバイトとして入りましてね。それでジャカルタが気に入って、実際にジャワ島のジャカルタに行って2年帰ってこなかったりして(笑)。帰らなかった理由? それはやっぱり気に入ってしまったからですよ。
ジャワの人たちはみんないい人で、素直で優しい。だから僕もお店で働いてくれる子はジャワの子を使いますし、僕自身も彼らに対して上からではなく対等な目線で接している。おかげさまで辞めていく人もいないんですよ。あ、あとインドネシアはいいところなんですけれど、“食文化”という考え方があまりないのですね。
大雑把なところがあって、たとえば牛肉は水牛のものでも牛肉として出てきてしまう。その点はウチのママ(料理上手の奥さま)がお店の料理として作ってくれて、ウチの子に料理として教えています。ママは夜に来ていただければお料理を運んだりしてますよ。
そんなこんなでインドネシアの料理店をずっとやっておりまして、最初はある渋谷の街で“JM”というね、4階建てのビルにカフェやギャラリー、屋台風のレストラン、入りきらないお客さんを屋上に上げているうちにナイショでビアガーデンをやったり……なんて、ビルまるごとインドネシアのお店も経営しました。
それで新宿や赤阪、六本木、そして名古屋……と頑張ってきたなか50歳になりました。以前から50歳になったときにリタイアするって言ってたんですね、僕。で、約束を破るのは嫌いなのでリタイアしてみたら……たとえば「これはこうしちゃいけないのだよな」ってわかっていても、対処ができなかったりする。もうリタイアしちゃったからね。その繰り返しや、ちょっとした問題もあって、いま経営しているのはこのお店だけ。この8年でいろいろ失っちゃったのよね。
こうなると経営の才能があるママがやっていればなあ……とかも思いましたけれどもね、いまはほら、やっぱりこのままでは悔しいのでね、なんとかしてやろう、と。いまもこのお店は僕だからできていると思いますしね。立地的にはなかなか難しいのですよ。でも僕にはお客さんに来てもらうアイデアがあった。たとえば、土日にはランチとディナーの間にライブなどのイベントをやっています。
これ、ディナーだったりランチの時間じゃ意味がない。その間にやることで、そのあと残って飲んで帰る人もいるかもしれないわけですから。ディナーの時間に料理代込みで……なんてやってもあまり意味はないのです。おかげさまで毎回好評ですよ。出演者もウチと年間契約みたいに出てもらっています。どなたかいたら紹介してください(笑)。
それとネットや“mixi”などでの発信をですね、「やったほうがいいですよ」と言われたら教わってやっているんですよ、この歳でも(笑)。先日もフジテレビの番組でお店が使われたのですが、ネットで情報を流していれば検索にも引っかかるわけですからね。
あとウチは込んでいても“追い立てない”から……その分、ちょっと高くは付くのですけれども(笑)、それでゆっくりしてもらえれば。近所の方以上に千葉や横浜から予約して来てくれるお客さんも多いのですが、そういった点もみなさん評価してくれているんじゃないでしょうか……。
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あ、料理が来ましたので個室のほうで写真を撮りましょうか……と元気に動き回りつつ、席に戻れば話が止まらない長濱さん。「軌道に乗せたら、ウチの子たちにお店は譲るんです。なのであまり店内には出てきません(笑)。写真もウチのエースでお願いいたします、ハハハ」と笑うが、その縦横無尽の話は提供されるバリ料理の素晴らしいアクセントになる。店内で見つけたら、ぜひその話に耳を傾けよう。
「今日の料理は僕が後で昼ご飯にしようと思っていたんですよ。ちょっと多いので一緒に食べましょう。ほらほら、どうぞどうぞ!」
はい、ではお言葉に甘えて、お呼ばれして参ります。
それではみなさん、『Monkey Forest』で会いましょう――。
Q・あなたにとって桜丘とは?
「やりがいがある街、と言えますね」
行ったことがある人はもちろん、行ってない人もバリ島を思わせる調度品の数々。当地は宗教文化としてインド仏教とヒンズー教が融合した“バリ・ヒンズー”が根付いています
さあ、いただきましょう!
こちら人気の『地鶏、子羊、牛肉、テンペの激辛串焼き』(1050円)。ひとくちで「うわっ辛っ」と言ってしまう文字通りの激辛メニュー、ビールが進んで困りますね。テンペとは大豆を発行させジャワ島発祥の食材ですね
キャベツなどの茹で野菜にピーナツのソースをかけたインドネシアのサラダ、ユニークなお名前は『ガドガド』(945円)。野菜もピーナツも甘めなわけですが、そこにバリ島的チョイ辛というのがまた合うんですね、これが
ポットで出てきましたのは『カンクンチャー』(840円)。空心菜(クーシン菜=青菜)を牛肉やタマネギとともに炒めたものでございます。『ナシプティ』と一緒にかき込むとおいしい……あ、ナシプティはごはんのことです、はい
やはりセットは当地のお酒にしましょうよ。センターに鎮座ましますのは『BATAVIAラガービール』(683円)。ラガーらしい深い後味&スッキリとした飲み口ですね。太刀持ちと露払いは、「GWAN GWAN HOO」社が製造するバリが誇る世界最古の蒸留酒『アラック』(630円〜)です。ストレートなどの危険な飲み方(笑)はもちろん、割って飲んでもおいしいですよ
【今回の桜な人々】
Bali Cafe Monkey Forest
エース店員・ユディオノさん
〒150-0031
東京都渋谷区桜丘町10-8
ヴィラ・アオヤマ1階(マップ)
ホームページ
http://www.monkey-forest.jp/