「渋谷らしくない桜丘」
当コーナーではすでにおなじみとなりつつあるフレーズだが、そうなるのはやはり国道246号の存在が大きい。渋谷駅南口から桜丘町へのメインアプローチといえば、国道246号を跨ぐ歩道橋。この大きな歩道橋が“別の渋谷”、桜丘へと私たちを誘ってくれている。
そんな入口の麓、まさに国道沿いにひときわ目立つ地下への入口がある。赤を基調とした覆いの下に延びる黒い階段を降りていき、目の前に広がった空間を眺める。実は当初、取材のお願いでうかがった際にはオープン前で明かりが灯っていなかったのものの、想像以上に広々とした店内なんだなあ……と感じていたのだが、開店後に再びやってくると、明かりとともに浮かび上がるその華々しさは感じていた以上。一目見て心躍ること間違いない。
立食ならば100人を越えるゲストがやってくるロフト付きの店内、年季の入ったテーブルやイス、バーカウンター。揃えられているシルバー類の輝き、壁一面に居並ぶボトル類、そしてサッカーゲームやダーツ、壁画などの調度品……“おもちゃ箱をひっくり返したような”という表現をもう少しアダルティーにするにはどうしたらいいのだろうか。ひょっとしたら“テレビで観たアメリカのバー”、これがいちばん当たっているのかもしれない。
そう、それが『AMUSEMENT』。この地にオープンして31年、そのうち26年を店長として生活をしてきた寒河江登さんが迎えてくれた。
「時代時代で時折変化を見せながら、桜丘でこのお店とともに過ごしてきました」
そう語りながらドリンクから料理までテキパキと仲間に指示を出す寒河江さん。「副店長の彼はシニアソムリエでもあり、お酒に関しては任せています。で、彼は今のチーフシェフ。2年間みっちり、『AMUSEMENT』の味を教え込みました。細い身体ですが、自分の体と同じ大きさの水を張った鍋をひとりで持ち上げますからね。力強いですよ」と、笑顔でスタッフを紹介。
「これからは彼らの力も借りて、“提灯”を灯し続けないといけないですからね」。全幅の信頼を置いたスタッフの仕事ぶりを頼もしそうに眺めつつ、寒河江さんは次々に店内の“仕掛け”を紹介してくれる。
「こちらの壁画をご覧ください。『AMUSEMENT』はアメリカの開拓時代をイメージしており、この絵はカウボーイなどが仕事を終えてくつろいでいるところです。それを画家さんに描いていただいたのですが、その画家さんはジョークのようなものを描かない方なんです。でも、この絵ですが、トランプをしていますけれども、“イカサマ”しているんです。開拓時代のイメージでしたら、やはりそういう絵がよかった。なので、どうしてもとお願いをしたんです。そうしたら当初は『3日考えさせてください』って(笑)。そうして描いていただきました」
「こちら、私どもの店の自慢です。現在、樽生ビールが11種類あるのですが、生ビールはすべて生きていて、コンディションもすべて違うんです。なので、すべての生ビールが最適なコンディションでいられるようにと考えて、ある業者さんが作ってくれました。『生ビールセラー』なんですね。カウンターの中には入らないので、カウンターを何席も潰しておいてあります。いまカウンターのこちらのお客さまは“生ビールさま”です(笑)」
「2階部分はミニカウンターもあるロフトになっています。アメリカなどでは、いろいろな家族が揃ってのホームパーティなどをして一段落すると、子供はワーッと騒いで、大人はもう一度落ち着いて……となるんですね。そういうスペースだと思っています」
話はこれだけに留まらない。店内すべてに寒河江さんの、『AMUSEMENT』のこだわりが存在しており、それを見、そして聞いているのがとても楽しい。そして時間を忘れていく。ドリンク、食事、店内、そして人。こられを楽しみ尽くすには何回通わないといけないだろう?
そう、一日だけでは回りきれない、楽しみきれない。それこそが真のアミューズメントパーク――。
「私はもともとランチのシェフとして『AMUSEMENT』に入ったんです。で、デセール(デザート)も作れたので、カクテルとかは簡単にマスターできるのでは、と思ったんです。ところがそうも行かなかったので、出回っているラムなんかを毎日ストレートとかで飲んでいたんですね。1年も経ったらヘロヘロになってしまいました(笑)。それに、以前年中無休で営業をしていた際、店長になった当時などは355日は働いていたり……。そういう経験をしながら、長い時間をここで過ごしています。若いお客さんにも集まってもらいながら、先ほど言ったようにロフトでくつろぐ大人たちも……その大人も、以前はワーッと騒ぐ子供のほうでしたよね。その子供が大人になっても『AMUSEMENT』を愛してくれる。“Old Kids”と私は呼んでいますが、若い人も“Old Kids”も楽しめる、そんな店であり続けたいと私たちはずっと思っています」
一度、国道沿いの青い階段を降りてみよう。
お客である私たちはもちろんのこと、『AMUSEMENT』を演出するスタッフたちも、みんなその空間・時間を楽しんでいる。そしてそんな空気の源は他でもない、寒河江登店長だ。
『AMUSEMENT』いちばんの“Old Kids”、なんて訳せばいいだろう……そうだ、“カッコいいオヤジ”が、今日も店の中で微笑んでいる。
Q・あなたにとって桜丘とは?
「“人と人”の街、ですね」
ほら、心躍りますよね、この店内。テレビで観たアメリカのバー、そう思いませんか
みなさん!
世界中のお酒が並ぶバーカウンター
立食ならば130人までOK、貸し切っていろいろなパーティ、やりたくなりますね。
「
結婚式に関するパーティでしたら、もう何組送り出しましたかね……」しみじみと寒河江さん、それもう親の目ですよ(笑)
そこいらにあるダーツバーなんかより絵になりすぎますね。ちなみにサッカー台はメキシコビールのコロナのもの。瓶とライムが人形の替わりになっております
ミニバーもあるロフト、そしてそこから眺める店内。至るところにさまざまな思い、思い出が詰まっております。一面の酒瓶を眺めつつ寒河江さん、「最初はお酒は7本しかなかったんです」……31年、人に、お店に歴史あり
こちら
『パテ・ド・カンパーニュ』(1000円)
豚肉を使ったテリーヌですね。
なめらかでありつつ、食感も見事なアクセントに。
大竹シェフの自信作ですね
『ローストポークのサラダ仕立て』(800円)
ジューシーなポークに
かかっているのはバルサミコソース。
バルサミコの風味、酸味が
ポークにも野菜にも
合いますね
『北海生タコのカルパッチョ』(1100円)
こちら、北海道からタコの足がドーンと
送られてきての調理です。
「生タコってなかなか食べきれなかったりしますよね。当店は新鮮、そして細かい仕事ですぐ口の中からなくなりますよ!」(寒河江さん)。
お見事!
『地鶏もも肉のカチャトラ風』(850円)
「カチャトラ風というのはイタリア
で“狩人風”ですね」(大竹シェフ)。トマトソースと食べ応えあるモモ肉、大人も
子供も笑顔の取り合わせですよ
最後はおなじみ
『ガトーショコラ』(750円)
もちろんこちらも手作りですよ。
ギュッと詰まったチョコレートがたまりませんよね、ガトーショコラって
お待ちかね、お酒でございますよ。
こちらはフレッシュフルーツを使った
フローズンカクテル(1200円〜)
これからの時期、
サッパリ飲みやすい……
もちろんアルコール入りなのでそこはご注意
さあ来た、こだわりすぎる樽生! ひぐま濃い麦酒、なまら苦い麦酒など日本語(でもアメリカ産)のものから、ヴァイエンシュテファンヘーフェヴァイス、ホフブロイヘーフェヴァイス、ポーラナーヘーフェヴァイス……などなど、ただいま11種類が勢揃い。ショートグラス630円からいけますよ! 右は寒河江さんのオリジナルカクテル『アンサンブル』(1200円)。メーカーズマークを使った味わいが変わるカクテルです。「男性でもストローで混ぜてストローで飲んでください。そして飲んでいるうちに味に変化がありますよ」(寒河江さん)。某有名俳優さんにもファンがいるカクテルですよ
「楽しそうな写真を撮ってもらおう!」という“カッコいいオヤジ”寒河江さんの号令の下、右がシニアソムリエの資格を持つ副店長・本庄健太さん、左がサバティーニで修行したシェフの大竹秀明さん。そ、楽しいお店なんですよ、ホントに
【今回の桜な人々】
RESTAURANT Bar AMUSEMENT
マスター 寒河江 登さん
〒150-0031
東京都渋谷区桜丘町2-9
糟谷ビルB1F(マップ)
ホームページ
http://www.bar-amusement.com/