今回は、ロック映画を紹介するにあたっての自分ルールを破って、ドキュメンタリーを紹介しちゃいます。この間観た映画がすごく良くって、どうしても皆さんに紹介したくてさ。というわけで、今回紹介するのは現在も公開中の『ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン』です!
JOURNEY はアメリカを代表するロックバンドのひとつ。大仰でドラマティックなアレンジに、ハードなギター、一緒に歌いたくなるキャッチーなヴォーカルライン……というサウンドで、70 年代から80年代にかけて世界中で大人気でした。伝説的なシンガー、スティーヴ・ペリーが脱退して以降はシンガーが安定せず、活動も停滞気味だったんだけど、近年、なんとYouTubeでJOURNEYをカヴァーした動画がきっかけでスカウトされたフィリピン人が加入し、大々的に復活。この映画は、そのシンガー、アーネル・ピネダの加入から最初のツアーまでを追ったドキュメンタリーです。
正直に言うと、その加入劇がニュースになったころにYouTubeで見た、スティーヴとそっくりに歌うアーネルの姿にはあまり良い印象を持っていませんでした。いや、アーネルが、というよりはJOURNEYに、かな。スティーヴ・ペリーの影からどうしても抜けられないんだな……って。JOURNEYの最大の魅力はスティーヴの歌声だったと言っても過言じゃないし、ファンにとってもあの声質が重要なのはよくわかる。でも、アーネルの前にも、高い歌唱力に加えてスティーヴと似た声質のシンガーを加入させてたけど、結局他のシンガーにはスティーヴの穴は埋められなかったわけで、懲りずにまたこういう人を入れたのかと、ちょっと残念だったのです。……でも、今回この映画を観て、アーネルに対しても、JOURNEYに対しても、ガラッと印象が変わってしまいました。
アーネルは現在もマニラに住むフィリピン人で、貧しい家庭に育ち、ホームレスになったりしながらも、歌を歌い続け、その歌声でバラバラになっていた家族を養っていた苦労人。アーネルの大ファンだったフィリピン人の友人がYouTubeに彼の動画をアップし続け、それを目にしたギタリストのニール・ショーンがメールをして加入に至ったらしいけど、最初は冗談だと思ったらしい。そりゃそうだよね! アメリカ人でもびっくりするだろうに、まさかマニラにいる自分にそんなメールが届くなんて、夢にも思わないだろう。ニールからの電話で本物だとようやく気づいたアーネルはオーディションに参加するんだけど、まさか合格するとは思っておらず、本物に会えればいいや、ぐらいの感じで、メンバーにサインをねだったりしたという。その辺のエピソードを話すアーネルがかわいらしくてね。気付いたときにはもう、彼のファンになっていました。
アーネルは自分の立場を理解し、決してでしゃばらない。スティーヴの代わりになることを求められていることがちゃんとわかっている。それってミュージシャンにとっては辛いことだし、あのスティーヴの代わりだなんて、プレッシャーも凄いだろう。それでもアーネルは前向きに、誠実に自分の役割をこなす。そんなアーネルをメンバーたちがすごくかわいがり、尊重もしているのが画面から伝わってくる。そして、年季の入ったファンからも「JOURNEYに入ってくれてありがとう」とまで言われるようになるんだけど、これはアーネルの人柄が大きいと思う。天狗になったっておかしくないのに、控えめで、なんだか応援したくなる人なんだよね。
加入後初のライヴ前にこそ、緊張とプレッシャーから家に帰りたくなったと話すアーネルだけど、小柄な体からは想像もつかないほどのパワーでステージを駆け回り、メンバーたちも驚くほどのパフォーマンスを楽しそうに繰り広げる。観てるこっちも笑顔になるほど! バンドもアーネルに影響を受けて、確実に若返った。そして、何が凄いって、ツアーを重ねるにつれ、スティーヴの影響を残しつつもアーネルらしさも感じるようになるんだよね。この人、スティーヴより凄いシンガーかもしれないよ! スティーヴに似た伸びやかな歌声に加えて、深みも感じさせる。こんなシンガーを見つけて、無名でもフィリピン人でも関係ないと、アーネルを加入させたJOURNEYに拍手。やっぱりJOURNEYは凄いんだな。
ラストシーンのマニラでのライヴが圧巻。自分の生まれ故郷で、家族が見守る中で、あのJOURNEYのシンガーとして、堂々たる歌声を聴かせるアーネル。映画のタイトルにもなった『Don’t Stop Believin’ 』はスティーヴ時代の名曲だけど、もう完全にアーネルの歌にしてしまった。「信じることをやめるな」と歌うこの曲が、これまで以上に胸に迫るのは、アーネルが歌うからこそだろう。信じることをやめずに歌い続け、挑戦し続けた男たちの物語。ぜひ観てほしい!
※ikkieがなんと「出張ギター教室」を始めてしまいました!
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