先に公開されたアメリカでは衝撃のラストをめぐって論争が巻き起こるなど、“衝撃”という言葉がこれほどまでに的を射ている映画もそうそうない。宣伝文句どおりの作品である。それもそのはず、原作はあのスティーヴン・キング、監督・脚本がフランク・ダラボンであり、このゴールデンコンビとしては『ショーシャンクの空に』『グリーンマイル』に続く第3作目だからだ。
ある夜、激しい嵐が町を襲う。翌朝はすっかり晴天となるのだが、湖の向こうの山から霧(ミスト)が立ち込めてくる。その霧はいかにも不自然な発生の仕方であり、主人公は不安を抱く。妻をひとり残し、夫は息子を連れて必需品などの買い出しにスーパーマーケットへと出かけるのだが…。
外界の様子が何もわからない場所に閉じ込められた人々。それだけで人は正常な判断力を失い、小さかった邪心が見る見る頭を擡げだす。自分の置かれている状況がわからない、たったそれだけのことで。
「最後まで望みを捨てない」という、当たり前のことすらもできなくなってしまう人間の悲しさ。自分こそは正常だと当たり前のように思っていたにも関わらず、それが見事に覆されてしまう無常さ。論争が巻き起こるのも無理はない。それだけ複雑で、かつ人間の心理を深く深く抉りだす物語なのだから。
本作はSFアクションであると同時に、密室劇としても人間の心のひだをつぶさに描き出している完璧なドラマだ。未知なるものや怪物や得体の知れないもの、そうしたものを“恐怖”として訴えるホラーものよりも、結局のところ、究極の恐怖は“人間”によって齎されるという、悲しく、そして紛れもない真実を本作は突きつけてくる。それも、「救いようのない」などという表現では生温いほどの、まさに心が地面に叩きつけられるかのような衝撃と絶望感を伴って。
よもや読者の皆さまの中にはエンドロールの途中で席を立つなどというマナー違反を犯す人はいないと思うが、念のため。本作こそは、必ず最後までエンドロールを観ていただきたい。否、正確には“聞いて”いただきたい。その救いは救いであることは間違いないのだが、救いであること自体がすでに“救えない”という事実を、嫌というほど味わっていただきたい。原作とは違う映画オリジナルのこのラストを、あなたはどう捉えるだろうか。このラストをどう受け入れるだろうか。
ミスト(Blu-ray)
原作:スティーヴン・キング『霧』
監督:フランク・ダラボン
脚本:フランク・ダラボン
出演:トーマス・ジェーン /マーシャ・ゲイ・ハーデン /ネイサン・ギャンブル
ジャンル:洋画
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