実話ものやノンフィクションが大流行の昨今だが、良質のエンタテインメント性と大いなる感動をセットにした作品となると、なかなかありえないものだ。本作は、そんな2つの要素を兼ね備えた稀有な作品である。
1994年、ロス暴動直後のロサンゼルス郊外。人種の対立、ドラッグとナイフと銃がものをいう、荒れに荒れた貧困層。そんな15歳の高校生たちのもとに、希望と夢にあふれた23歳の女性教師が赴任するが…。
誰もが、自分の心の声を誰かに聞いて欲しいと願っている。たとえそれがどんな些細なことであっても…例えば、近所の肉屋で買ったコロッケがおいしかったとか、道端の雑草をよくよく見てみたら花が咲いていたとか。何かに心を動かされたら、その差分を自分以外の誰かと共有したいのだ。
それが大きな悩みだったら尚更である。日々の生活さえも脅かすような悩みを1人きりで抱えていたなら、そしてその悩みが自分だけでは解決しえないような重大な問題だったとしたら尚のこと、辛い心中を誰かに話さずにはいられなくなる。たとえその問題が解決されなくとも、誰かに打ち明けるだけで、心の苦しみはずいぶんと軽減されるものだ。
でも、どうしてだろう? よく「心のふれあいが大切」などというが、なぜだろう?
世界には無数の人間がいるが、自分以外は全員、他人である。そして、他人の考えや気持ちというものは、だいたいが自分とは異なっている。異なっているからこそ、自分の心のように他人の心はわからないものだからこそ、その異質なものとふれあい、何かを共有することができたときには喜びを感じる。共有によって、心の領域が広がるのかもしれない。自分という枠を超え、他人の分まで自分が大きくなれるのかもしれない。そんな性質を、私たちの心は生まれつき持っているのだろう。そしてその行為が広がっていったときに、世界は自ずと“ユートピア”や“桃源郷”と呼ばれる状態に近づいていくのだろう。
そんなかけがえのない関係性を、限られた人生のなかでどれだけ増やすことができるか? 何もしなければ、何も変わらないままである。何かアクションを起こすからこそ、事態は変わっていく。だが、そのアクションがなかなか難しい。ちょっとした勇気がないと、一生できないことだってある。だからこそ、そのアクションを手助けしてくれる存在が必要だ。特に、人の善性を信じられなくなってしまった子どもたちにとっては必須の存在なのだ。
大仰なことをすれば感動するだとか、奇をてらったことをすればウケがいいとか、人間の感情はそんな仕掛けに左右されるような簡単なものではない。当たり前のことを、いかに人の心に訴えるように描くか。スタンダードな手法こそが、大きな感動を呼び起こすのである。
フリーダム・ライターズ スペシャル・コレクターズ・エディション(DVD)
監督:リチャード・ラグラヴェネーズ
脚本:リチャード・ラグラヴェネーズ
出演:ヒラリー・スワンク /イメルダ・スタウントン /パトリック・デンプシー
配給:UIP映画
ジャンル:洋画
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