コメント一切なしで赤裸々に綴る選挙の実態
選挙の裏側なんて、だいたいはテレビやなんかで時おり報じられるくらいである。概してテレビはテレビであるから、当然ナレーターのコメントが入る。それは放送作家がテレビをエンタテインメントに仕立て上げるために、事実を捻じ曲げてでも候補者や政党を必要以上に揶揄したり、こき下ろしたりして面白おかしく仕立て上げたシロモノであり、ブラウン管に映し出される映像とそのコメントがまったく合致していないことすらある。
だが本作はといえば、コメントは皆無で、事実だけが淡々と綴られていく。出演者は自民党候補者とそのスタッフの面々なので、もしや自民党の宣伝映画なのでは? と一瞬危惧したが、政策の説明なども一切なく、作品からは政治思想的意図は垣間見られない。それどころか、候補者のお間抜け加減や夫婦喧嘩、スタッフの辛らつなイヤミまでもが赤裸々に映し出され、自民党のイメージにマイナスポイントを付与してしまうシーンさえある。隠しカメラで覗き見しているような錯覚をも覚え、目を三日月型にしながらホクソエんで楽しめる、退屈しないドキュメンタリーとなっているのである。
この候補者を“憎めないキャラ”と位置づけて親しみを持つ方もいるだろう。虐められっぷりに同情心を起こし、思わず応援したくなってしまう方もいるであろう。ベルリン映画際フォーラム部門等々に招待されて海外メディアから絶賛の嵐を浴びたのは、日本という国の滑稽な部分を如実に表すシーンが多々あるからだ。映画作品としての評価も軒並み高い。
と、“良く”観る見方もあるが、コメントのない映画だからこそ、当然、“悪く”観る見方だってある。この候補者がスタッフからイヤミを言われたり怒鳴られたりするのは、彼がそれだけヘマをやらかすからだ。この程度のことを「可哀相」などと言っていたら、世のサラリーマンたちはどうなる? 民間企業はもっと厳しいのですよ。政治の世界なんて、まだまだ甘いね。ふざけんじゃないよ。……と思うことだって自由だ。なにせコメントという邪魔なシロモノがないのだから。
もうすぐ夏の参院選であるが、こうして選挙の舞台裏を隅々まで知ることも、候補者選びの一助になるのかもしれない。
選挙(DVD)
監督:想田和弘
出演:山内和彦 /山内さゆり /小泉純一郎
ジャンル:邦画
公式サイト:http://www.laboratoryx.us/campaignjp/