「愛国心」という言葉は、日本ではどうも馴染みが薄い。ともすると戦争の記憶と結び付けてしまい、ネガティブな言葉と印象付けてしまう御仁もいるだろうし、愛国心教育の是非の論争も記憶に新しいところだ。
幕末期の1863年。密航は、見つかれば死罪という重罪だ。そこまでの危険を冒してもイギリスへの密航を成し遂げた長州藩の5人の志士達。日本国に新しい時代を確立するというその気概だけを胸に、自らの命を顧みずに突き進んだ若者達。のちのイギリス人はこの5人の果敢な勇気に敬意を払い、彼らを「長州ファイブ」と呼んだ。
その5人とは、若き日の伊藤博文、井上馨、井上勝、遠藤謹助、山尾庸三。いずれもその後の日本を変えることとなる歴史的重要人物の面々である。
彼らを突き動かしたものは一体何か? 乱暴に一言で言ってしまえば、それこそ「愛国心」だろう。だが、彼らの意志とは対極にあるところの尊王攘夷派にもまた愛国心はあったのだ。どちらかの愛国心が完全に正しく、どちらかが絶対に間違っているということはないであろう。どちらにもそれぞれの愛国心は含まれ、その思想だけを見て正邪を分かつことなどできない。砂糖が角砂糖として固体化しているか、それとも水に溶けて砂糖水になっているかの違いであって、それだけをもってどちらが良いだの悪いだのを語るのはナンセンスだろう。
ただひとつ言えることは、国よりももっと大きな目…国という枠組みを超え、人類としての進歩という目で見た場合、砂糖は水に溶けていたほうが万人に行き届いたということだ。角砂糖として形をとどめるのではなく、プライドという名の形をなくして、いわば「無私」となったほうが結果としては隅々まで行き渡ったわけだ。
愛国心論争が尽きない今の日本だが、彼らがこのことを知ったら何と言うだろう。天国の彼らに是非とも聞いてみたいところである。
長州ファイブ(DVD)
長州ファイブ(コミック)
監督:五十嵐匠
脚本:五十嵐匠
出演:松田龍平/山下徹大/北村有起哉
ジャンル:邦画
公式サイト:http://www.chosyufive-movie.com/
© 2006「長州ファイブ」製作委員会