およそブルース・ウィリスとは思えない風貌である。
ふくれたお腹、禿げ上がった頭、愚鈍そうな髭面。何度か目を凝らして、ようやく本人だと認識できる。「ダイ・ハード」シリーズでのキレたアクションぶりからは想像のつかない、情けない役どころなのだ。
主人公はアルコール依存症の刑事。ある日、夜勤明けの彼に上司が残業を言いつける。フラフラの頭と体でしぶしぶ引き受けたのは、16ブロック先の裁判所へと証人を送り届ける簡単な任務のはずだったのだが…。
ニューヨークでは、アベニューとストリートに囲まれたエリアを“ブロック”と呼ぶ。16ブロックを東京に例えるなら、東京?新橋、または渋谷?原宿といったところだ。この短い距離のなか、予想のつかない緊迫した出来事が次々に起こる。役どころはドンくさいが、ウィリスの立ちまわりはやっぱり見ものだ。正義の味方は彼ひとりだけというシチュエーションは「ダイ・ハード」を彷彿とさせ、秒刻みで時間に追われるさまは、さながら「24」といったところだろうか。安心して楽しめる王道アクションに仕上がっている。
証人役のモス・デフはヒップホップ・アーティストとしての活躍から俳優に至る。監督からも、そしてウィリスからも一目置かれる実力派だ。ラッパー出身だけあって、弾丸のように台詞を喋る喋る。うるさいくらいだ。
ウィリスと対立する刑事にはデヴィッド・モースが扮する。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」、「ザ・ロック」、「交渉人」、「コンタクト」など、いずれも一癖も二癖もある重みのある作品に出演している存在感ある俳優だ。ブルース・ウィリスとは「12モンキーズ」以来の共演で、執念が絡みあうように呼吸さえもが呼応しあい、絶妙な間合いを醸し出している。
監督はインタビューのなかで、「常習犯の99.9パーセントは更正しないという事実に絶望した」と答えている。本作にこめられた“人間は変わることができる”というメッセージは、犯罪の多発するアメリカはもとより、全人類に向けて監督が切望する願いなのだろう。
16ブロック(Blu-ray)
監督:リチャード・ドナー
出演:ブルース・ウィリス/モス・デフ/デヴィッド・モース
ジャンル:洋画
公式サイト:http://bd-dvd.sonypictures.jp/16blocks/index.html