ローズ・イン・タイドランド

20070713153201pic1.jpg ギリアム版『不思議の国のアリス』が誕生—。映画界の鬼才、テリー・ギリアム監督の新作である。前作の『ブラザーズ・グリム』、そして今回は『不思議の国のアリス』がモチーフということは、大人も子どもも皆で楽しめる娯楽性の高い作品なのだろうか? と、ついつい期待して観てしまいがちである。だが、これは鬼才ギリアムの作品。しかも、今回は興行成績のノルマ(!)をさほど気にせずに作った映画だ。キャッチコピーをそのままの意味で読んではいけない。これは列記としたギリアム作品なのである。

フライヤーの言葉を検証してみよう。まず、あらすじ冒頭に「(主人公の)ジェライザ=ローズはとんでもなく悲惨な状況にいる女の子。」とある。あたかも、主人公の女の子は純粋で穢れなく、周囲の意地悪や貧困に必死で耐える、シンデレラ姫かのような印象を持ってしまう。だが、実際は違う。あまりの劣悪な環境に慣れきってしまい、大人から見ても、なんじゃこりゃ?! な生き方が身についてしまった女の子なのである。

次にこの説明だ。「彼女の日常は元ロックスターのパパと、自分勝手なママの世話をすることから始まる。」ワガママな両親の世話をすべく、一生懸命に家事をこなす女の子…ではない。世話ってその世話かよ?! と、突っ込みたくなるような世話の仕方なのである。確かに手際はいいが、そんなものの手際がよくってどうする…と、アタマを抱えたくなってしまう。
続いてはこれだ。「(お祖母ちゃんの家に)着いてすぐ、パパは“バケーション”に出てしまい、見知らぬ土地でひとりぼっちになってしまう。」父親は女の子を残して出かけてしまったのか、そうか。…ではない。バケーションって、そんな意味だったとは。呆れ果てて、深いため息が出てしまうのである。

というわけで、万事が万事こんな調子なのだ。ギリアム・ワールドが炸裂している。充分に気をつけてご覧いただきたい。本作の原作は『不思議の国のアリス』ではないのだ。それはただのモチーフであって、原作は『タイドランド』というタイトルの別作品だ。肝に銘じて臨んでいただきたい。

本作で堪能できるのは、主役のジョデル・フェルランドちゃんの魅力だ。大きな瞳の中に、これまた大きな黒目がキラリ。“人形のよう”とはまさにこのことだろう。2歳でデビューして以降、26作品もの作品に出演しているベテラン子役である。ジョデルちゃん、ジョデルちゃん、ジョデルちゃん。ちょっと発音しにくいが、ダコタ・ファニングを抜いて近いうちにハリウッドをおおいに賑わすことになるであろう、注目株なのである。

ローズ・イン・タイドランド(DVD)
監督:テリー・ギリアム
出演:ジョデル・フェルランド/ジェフ・ブリッジス/ジェニファー・ティリー
ジャンル:洋画