33年前、日本映画史に残る大ヒットを記録したパニック映画、『日本沈没』。小松左京原作によるこの作品が、現代に甦った。
どんなジャンルの映画でも、肝心なのは“いかに人間を描くか”である。たとえ設定がどんなに優れていようと…パニック映画であろうと恋愛ものであろうとアクション大作であろうと、人間そのものを描くことが出来ていない作品は駄作と化してしまうのだ。
本作はどうか。CGやアニメーションによる撮影技術の発達により、その映像はよりスケールと現実感を増し、観る者の胸に迫ってくる。街並みを埋め尽くしていく炎、恐ろしいほどに静まり返った深海、都心の見慣れた光景が一瞬にして崩れ去っていくさま。特撮もさることながら、防衛庁や自衛隊をはじめとした錚々たる公的機関の全面協力を得るなど、登場人物を取り巻く環境はこの上なくリアルかつ迫力あるものに仕上がり、設定の描き方そのものは見事なのである。
肝心の“人間描写”はどうか。本作ではが潜水艇のパイロット、柴咲コウが女性レスキュー隊員に扮する。その職業が象徴するように、女は燃える火のごとく情熱的に、男は静まりかえった海底のように冷静に、互いを…そして日本の国土を愛するのである。ふたりの繊細な恋心は、破壊されていく苛酷な環境の中でより強固なものになっていく。男と女、火と水、情熱と冷静、結合(恋)と破壊。本作は暗に対比を使った手法で人の心の微妙な動きを描きだしているのである。
そして「いのちよりも大切なひとがいる。」のコピーどおり、クライマックスでは美しいほどの悲しみが降りかかる。宮澤賢治の『銀河鉄道の夜』で家庭教師の青年が語るように、「ただいちばんのさいわいに至るためにいろいろのかなしみもみんなおぼしめし」なのだろう。本当に大切なものは、命よりも重いのである。
日本沈没 スタンダード・エディション(DVD)
監督:樋口真嗣
出演:草なぎ剛/柴咲コウ/豊川悦司
ジャンル:邦画