子ども時代はともかく、おとなになってもなかよしの兄弟というのは、あまり聞いたことがない。ひとつ屋根の下に住んでいても、ほとんど会話しない兄弟だってめずらしくない。「友人は選べるけれど兄弟は選べないからね」という知り合いの言葉にも納得。ところが、今回紹介する「間宮兄弟」は「お互いがお互いをパートナーに選んだ兄弟の物語」といっても過言ではない。
間宮兄弟は30代。マンションでなかよく同居している。部屋は整理整頓され、清潔な服装を心がけ、ふたりできっちり生活している。兄、明信はビール会社の商品開発研究員、弟、徹信は小学校の用務員。どちらもも希望をかなえた仕事である。
兄弟は長年つちかってきた、遊び、楽しみとその流儀を共有している。お気に入りの飲み物(兄=ビール、弟=コーヒー牛乳)片手にビデオ鑑賞。クロスワードパズルをはじめとするさまざまなアナログのゲーム。テレビの野球観戦(必ずスコアをつける)。
ふたりの共通点は、異性にもてないこと。それでも、努力を惜しまない。行きつけのビデオショップの女の子、弟が働く小学校の女教師に声をかけて、カレーパーティを開くのだ。間宮兄弟をとりまく女性たちは、ふたりにとても興味を抱くけれど恋心は…。
さまざまな人間関係のなかで、落ち込むこともある間宮兄弟だけれど、日常に溶けこんだ「好きなこと」がふたりを立ち直らせてくれる。大きな起承転結がない、たんたんとしたストーリーのなかに、小さな幸せが散りばめられている。最初は「こんな兄弟ありえない…」と思っていたのが、物語が進むうちに「こんな兄弟があってもいいじゃん!」とうなずいてしまう。弟、間宮徹信役の塚地武雅(ドランクドラゴン)が、素人っぽいキャラクターでいい味を出している。兄、間宮明信役の佐々木蔵乃介も好演しているが、ちょっとかっこよすぎるのがたまにキズ。 カレー、餃子、塩むすび。何てことない食べ物だけど、映画を見ると唾がごくんとなる。ヒー牛乳が飲みたくなる。
江國香織はこれまで、夫婦、恋人、親子などをテーマに、独特な視点で小説を紡ぎだしてきた。主人公の多くはヒロインであったが、「間宮兄弟」では初めて男性を、それも兄弟を主人公に据えた。それでも違和感なく江國ワールドが展開されるのはさすが! 間宮兄弟がどんなふうに育てられ、どのような経緯で同居が始まったか、兄弟が「好きなこと」の歴史、背景などのなど、本を読むとよりふくらみが増す。
映画と本の両方がお互いを引き立てている。どちらも江國ワールドを堪能できる点で変わりない。 記者は最初に本を読み、映画を見て、また本を楽しんだ。「間宮兄弟」は二粒で三度おいしいコラボレーションなのである。
間宮兄弟(DVD)
間宮兄弟(単行本)
原作:江國香織
監督:森田芳光
脚本:森田芳光
出演:佐々木蔵之介/塚地武雅/常盤貴子
配給:アスミック・エース
ジャンル:邦画
公式サイト:http://mamiya-kyoudai.com/