2008年のリーマンショックで、思考停止に陥ったウォール街を敵に回して勝ち抜けた4人のアウトロー……すなわち”変人”たち。クリスチャン・ベール(『アメリカン・ハッスル』、「バットマン」シリーズ、)、スティーブ・カレル(『フォックスキャッチャー』)、ライアン・ゴズリング(『ドライヴ』、『ラースと、その彼女』)、ブラッド・ピット(『それでも夜は明ける』、『マネーボール』)といった実力派スターたちの豪華競演に、本年度アカデミー賞で作品賞・監督賞を含む計5部門に堂々のノミネート!
2005年。ヘヴィメタ好きの金融トレーダー、マイケル(クリスチャン・ベール)は、サブプライム・ローンが数年以内に債務不履行に陥る可能性に気づく。突拍子もない(ことのように思えた)マイケルのこの説は、ウォール街からも投資家連中からも一笑に付されるが、怯むことなく、マイケルはサブプライム・ローン暴落時に巨額の保険金を手にできるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を投資銀行と契約する。同じ頃、ウォール街の銀行家ジャレド(ライアン・ゴズリング)、ヘッジファンド・マネージャーのマーク(スティーブ・カレル)、元銀行家のベン(ブラッド・ピット)もまた、動き始める……。
経済問題にさして明るくない御仁にも容易く理解できるよう、随所随所で登場人物がおもむろにカメラ目線で語り始めたり、唐突に著名人を出演させて事態を説明させたりする。『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のマーゴット・ロビーのシーンも実に皮肉めいており、ついニヤリとしてしまう。
リーマンショックの時代は、アメリカでは空前の和食ブームの時代でもある。劇中には日本食レストランNOBUも登場し、BGMには徳永英明の『最後の言い訳』が流れる。恋愛の歌詞ではあるのだが、このサビ部分が、恋愛ものではない本作の内容ともピッタリ合致し、コメディという仮面にカモフラージュされた本作の本質を物語る。この曲のこの部分をチョイスした音楽担当はグッジョブ、だ。
ヘッジファンド・マネージャーを演じたスティーブ・カレルは言う。「これはホラー映画なんだ」と。私たちが生きている今の時代に意識を戻せば、先日はマイナス金利が発表され、日経平均株価も大幅に下落した。今年2016年もまた、のちに何かの名称で呼ばれる重大な経済現象となるのだろう。世界を滅ぼすのに、必ずしも武器は要らない。経済さえ滅茶苦茶になれば、世界はあっけなく崩れ落ちてしまうだろう。その時に、本作の変人たちのような視点で“真実”を見抜けるのは、いったい何人いるだろうか。
全編、コメディ(かのような)タッチで描かれる本作。監督がそもそもコメディ畑の出身だからだが、見終わったあとに思う——「笑わなければヤッてらんない」からこのタッチなのだ、と。変人4人の勝利は、ウォール街の敗北と共に、無数の庶民の人生が搾り取られることをも意味する。善良な市民たちは、金融のプロたちの言うことを素直に信じただけなのに。両手を上げては喜べない、苦い苦い後味だ。
原作: マイケル・ルイス「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」(文春文庫刊)
監督・脚本:アダム・マッケイ
脚本: チャールズ・ランドルフ
出演:クリスチャン・ベール、スティーブ・カレル、ライアン・ゴズリング、ブラッド・ピット
配給: 東和ピクチャーズ
公開: 3月4日(金)、TOHOシネマズ 日劇ほか全国公開
公式サイト:http://www.moneyshort.jp/
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