美女と野獣

20141027cpicm.jpgこの「美女と野獣」、主演がヴァンサン・カッセル……ええと、すなわち「王子」役がヴァンサン・カッセル……なんですよね。
ヴァンサン・カッセル……1966年生まれの48歳。王子さまで48歳……。

と、思って良く考えたら、この作品は美女と「野獣」。その多くのシーンが「野獣」メイクなので、スッピン48歳のシーンは以外と少ないハズ。ああ、そりゃセーフかヴァンサン・カッセル、と安心したのでした。

と、安心したところで(笑)、中身の話。「美女と野獣」と言えば、多くの人は絵本などで、またディズニーの大ヒットアニメーションで知られているお話だと思うが、その絵本やアニメーションのベースとして使われているのは、1756年にボーモン夫人がリライトした短縮版だそうだ(映画公式サイトより)。

しかし、今回の作品は大元の原作、1740年にヴィルヌーヴ夫人の書いた長編物語をベースにしている。したがって、我々が今まで絵本やアニメーションで見聞きしたことのないエピソードやシチュエーションが満載で、それだけでも結構楽しめる作品になっている。

20141027cpic_a.jpg最近のヨーロッパの映画のファンタジー物やSF物に共通した印象なのだが、アメリカの大作映画に見られるようなきらびやかな色彩や、どこまでもシャープで画面上に溢れる情報量、手前から奥までピントが合ってるCGを駆使したパンフォーカスなどの圧倒的画像に対して、落ち着いた色彩や空気感を表すライティングなど、ちょっと地味と感じるかもしれないが、より自然な観せるやりかたを好んでいるようで、本作で描かれる街や森の風景、民家や城の中の佇まいなど、ちょっと薄暗いけれども何となく見えているという印象が強い。実際ヨーロッパでは多く使われている「間接照明」の感じがとても心地よい。すなわち「眼が疲れにくい」のだ。

また、そのちょっと薄暗いという印象は、観ている方に「暗闇の中に何かあるんじゃないか?」、「何か隠れてるのがありそうだぞ?」というように、いろいろな想像をかき立てさせてくれて、物語に一層のめり込まさせてくれる効果もあるのではないかと思っている。ただぼーっと眺めていると大事なことを見逃しちゃうかもしれない! という緊張感も含めて、この辺のアメリカとヨーロッパの「画つくり」の違いがなかなか面白い。

肝心の内容だが、主人公のベルやその家族たちの性格、あるいは生活、そして「野獣」になってしまう前の「王子」の性格や生活、そして部下たちの話などがていねいに描かれているのを観ていると、この話が単に「めでたでしめでたし」で終わるおとぎ話ではなく、かなり生々しいダークファンタジーであることに気付かされる。元々ヨーロッパのおとぎ話の多くは、人間の生活や性質、憎悪や批判、性などが絡む生々しいモノなわけだが、この「美女と野獣」も非常に乱暴に言えば「女絡み」のまあ、アレコレで王子がああなった的なエピソード明かされたりして、なかなかハードな人生でありますよ王子さま。一緒にいた家来たちも大変な目に合っちゃうわけですが、まあ、脇役の連中は少々つじつまが合わなくてもスルーされたりする大ざっぱな部分も含めて、まあ「ファンタジー」らしさなのかな、と。

ディズニーの作品を意識したカメラワークや背景美術で描かれる2人だけの舞踏会シーンや、ナウシカの巨神兵の戦いを思わせるような、ラスト近くの神話的なエピソードを絡めたアクションシーンなど、いろいろな要素も詰め込んでの約2時間。+Rのレーティングもかかってないので、コドモからオトナまで楽しめるファンタジーに仕上がっております。何よりもサービス満点のアメリカ製映画にお疲れ気味の方にはおすすめ。単なる時間つぶしではない、ちょっとした幸福感を得ることができるはずだ。いい作品です「美女と野獣」。ベル役のレア・セドゥちゃん超可愛いし。


原題「LA BELLE ET LA BETE」
監督:クリストフ・ガンズ
脚本:クリストフ・ガンズ/サンドラ・ヴォ=アン
キャスト:レア・セドゥ/ヴァンサン・カッセル/アンドレ・デュソリエ
上映時間 113分/2014年/フランス=ドイツ
公式HP:http://beauty-beast.gaga.ne.jp/
公開:11月1日(土)TOHOシネマズ スカラ座ほかにて全国公開

 

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