転落したセレブの人生を辛辣かつユーモラスに掘り下げる、ウディ・アレン監督作。けれん味たっぷりのアレン節は初期の作品群を彷彿とさせ、主役のケイト・ブランシェットを本作で本年度アカデミー賞主演女優賞に輝かせ、各評価筋からも「キャリア最高のパフォーマンス」と絶賛の嵐。ブルー(憂鬱)なセレブの醜態は、極上のエンターテイメントだ。
ニューヨーク・セレブリティ界の花としてかつては夢のような生活を送ってきたジャスミン(ケイト・ブランシェット)。だが今はすべての資産を没収され、「一般人」の妹宅に身を寄せざるを得ない。現実から逃れるため、精神安定剤とウォッカだけが彼女を支えるという荒んだ生活の中、妹に諭されてインテリアデザイナーを目指そうとするが……。
人間なら誰でも、多少なりとも自分を良く見せたいものだ。相手に失礼がないように、というのももちろんそうだが、家族でもない限り、わざわざ自分の悪い所をさらけ出したくないのが人情というものであって、できれば良い部分だけを見てもらいたいものだ。嘘、とまではいかないにしろ、そういった面を人間は持っている。SNS等で仮面キャラで振る舞う人が多いという話もあるが、誰だって自分を理想の場所まで持ち上げたい。現実がそれに追いついていないのなら、他人に害が及ばない程度に「イケてる自分キャラ」で振る舞いたい気持ちは誰にだってあるだろう。
「現実」から逃げ出したいジャスミンは、それをネット上でなく生身の人間相手にやってしまう。人間、セレブではなくとも生活のレベルを下げるのは容易ではないというが、それが裕福で何不自由ないレベルからただの庶民への転落だったら、精神も崩壊してしまうのだろう。彼女自身に「這い上がる」実力が備わっていればそれでもなんとかなるのだろうが、中身のない彼女は逃げるか、または他人に頼ることしか術がない。その醜い様を多様な角度から掘り下げ、辛辣に、けれどユーモラスに、まるで細密な鉛筆画のように描いていく。この手法でウディ・アレンの右に出る者など、この世に存在しないだろう。
絶対数から言っても、これを観る多くの観客は富裕層ではなく「庶民」だろう。富裕層の「知らない」世界から転落して「自分たち」のところまで落ちてくる姿を観るから面白い、という気持ちは正直言ってゼロではないはずだ。また、ジャスミンの滅茶苦茶な言動そのものが面白いという要素だってもちろんある。だが、ジャスミンほど極端ではないにせよ、少しでも自分を良く見せようとして「盛って」しまいたくなる気持ちが万人の心にあるからこそ、その部分に呼応して本作はその面白さを加速させていくのだ。
監督・脚本:ウディ・アレン
出演:アレック・ボールドウィン『ローマでアモーレ』、ケイト・ブランシェット『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』『エリザベス』、サリー・ホーキンス『ウディ・アレンの夢と犯罪』、ピーター・サースガード『17歳の肖像』
配給:ロングライド
公開:5月10日(土)新宿ピカデリー&Bunkamuraル・シネマ&シネスイッチ銀座ほか全国公開
公式サイト:blue-jasmine.jp
Photograph by Jessica Miglio © 2013 Gravier Productions, Inc.
Photograph by Merrick Morton © 2013 Gravier Productions, Inc.