『裸のランチ 』、『クラッシュ 』、『イグジステンズ 』で知られる鬼才デイヴィッド・クローネンバーグ監督が、原作の小説をもとにわずか6日間で脚本を書き上げた本作。『トワイライト 』シリーズのロバート・パティンソンを主役に据え、わずか一日で巨額の資産を失った若き投資家の、栄光と破滅の24時間を描く。
ニューヨークの街をゆっくりと進む白いリムジン。28歳にして大富豪である投資家のエリック・パッカー(ロバート・パティンソン)は、一日の大半をこのリムジンの中で過ごす。車内にはあらゆるハイテク機器が揃い、オフィスに出向かずとも巨万の富を動かすことができるのだ。だが、とある投資が大失敗となり、彼の人生は音もなく狂い始めていく……。
人間の「狂気」を描かせたら右に出る者はいないクローネンバーグ。本作は大半がリムジン内での撮影だということもあり、前述の作品群よりは地味目な映像に仕上がっている。このあたり、グロさを期待する御仁にとっては少々物足りない感があるかもしれない。だが、本作では登場人物たち、とりわけ主役のパッカーの精神の狂いがものの見事に現わされている。美しくとも心の通わない他人のような妻、入れ代わり立ち代わりリムジンに現われる客人たちとのやり取り、毎日毎日車内で行なわれる健康診断、忠実に自らを守るボディガードに下す無慈悲な行為……。クローネンバーグの残酷さは、相も変わらず健在だ。まるでオモチャを持つかのように銃をゆらし、パッカーの精神の不安定さを滲み出させるパティンソンの演技も秀逸。
金がすべてではないが、ある程度の金がなければ精神の安定すらおぼつかないのが人生。何ひとつ不自由なく引きこもっていた天国のリムジンから、ネズミたちが闊歩する地獄に堕ちたパッカー。ヒエラルキーの極上から極下へと一気にテレポートした彼のふり幅は、ネズミと心を通わせることでしか埋める手立てがない。白いリムジンから、薄汚れたアパートへ。彼が最後に心を許した相手と重ねる数少ない言葉が、その悲しさをより一層引き立てる。全編を通し、現実感のない台詞の数々が彼の存在をより希薄なものにさせる。結局は「金」だけだったその人生を。
監督・脚色:デイヴィッド・クローネンバーグ
原作:ドン・デリーロ「コズモポリス」(新潮文庫刊)
監督・脚本:ラナ・ウォシャウスキー/アンディ・ウォシャウスキー/トム・ティクヴァ
出演:ロバート・パティンソン/ジュリエット・ビノシュ/サラ・ガドン/マチュー・アマルリック/サマンサ・モートン/ポール・ジアマッティ
配給:ショウゲート
公開:4月13日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
公式HP:http://cosmopolis.jp/
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