脳男

20130206picm_b.jpg全選考委員の満場一致で江戸川乱歩賞受賞となり、2000年刊行された長編ミステリー小説、『脳男』。過激な描写から映画化は不可能と言われてきたが、生田斗真を主演に迎え念願の実写化を叶えた本作。一切の感情を排した難しい役柄を、一切の無駄をそぎ落とした美しい肉体が演じる。

無差別連続爆破事件が頻発する都内近郊。正義感の強い刑事の茶屋(江口洋介)は犯人のアジトを突き止めるが、そこには犯人と思われる一人の男(生田斗真)がいた。鈴木一郎と自らを名乗る男の身元は一切不明。犯行の異常さのため精神科医(松雪泰子)から精神鑑定を受けることになった男だったが、その異常さは類を見ないものだった……。

20130206pics_b.jpg猟奇的なシーンについては、日本映画だからかはたまた規制回避のためか、残虐性はさほどではない。舌を切られた人間があの程度の表情で歩けるものか、冒頭からすでに疑問が残る。が、幹はそこではない。本作でものを言うのは、なんといっても脳男役の生田だ。武術の訓練や食事制限をし、外食をしないため自宅に引きこもる毎日が非コミュ力を鍛え、結果キレのあるアクションや「無表情で演じる」という難しい役どころを演じきっている。「アイドルだからダメ」と簡単に烙印を押すのは単なるステレオタイプの食わず嫌いというものだ。生田の裸体も眩しく、ファンサービスはバッチリ。また、爆弾魔役の二階堂ふみのイッちゃってる感も見ていて惚れ惚れするし、松雪の患者役として後々のキーパーソンとなる染谷将太も、ほんの少しの時間の演技で、ずば抜けた存在感を呈する。松雪の抑えた感の演技と江口のワイルドな役柄は、好みが分かれるところだろうが、その対比は味わい深い。松雪が醸し出すどことなく非現実的な雰囲気を、同僚役の甲本雅裕のリアルな演技が補完しているのもまたいい。

原作である小説を映画化することにつきまとうのは、やはり登場人物の心理描写が映画ではなかなか難しいといったところだろう。そのハンデを映像が補えるのかどうかが、映画の成功を見極めるポイントだ。原作と映画を比較するのであれば、本作もやはり原作を読んでから映画鑑賞に臨むことをお薦めする次第だ。それは映画がダメで原作がイイ、といった類の話ではない。文章よりも映像作品のほうが、ネタバレしたあとでも鑑賞に堪えうるからに他ならない。


原作:首藤瓜於『脳男』
監督:瀧本智行
脚本:真辺克彦/成島出
出演:生田斗真/松雪泰子/二階堂ふみ/太田莉菜/大和田健介/染谷将太/光石研/甲本雅裕/小澤征悦/石橋蓮司/夏八木勲/江口洋介
配給:東宝
公開:2月9日より全国東宝系にて公開
公式HP:http://www.no-otoko.com/
 

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