韓国の聴覚障害者学校で実際に起こった虐待事件をもとにした小説の映画化作品。その理不尽な内容から世論の義憤が爆発し、国の法律をも変えたという告発サスペンスだ。鑑賞後にここまでの怒りを覚えた映画を、私は他に知らない。
郊外の霧の街、ムジンで美術教師として赴任することとなったイノ。笑顔の奥に冷たい瞳を湛えた教職員たち、大人になつこうとしない生徒たち。常態的に性的虐待が行なわれている事実を知ったイノはこの真実を告発することを決意するが、「善」とは真逆の利益に支配された現実が鉄の壁のように立ちはだかっていた……。
「トガニ」とは、韓国語で「坩堝(るつぼ)」の意。本来ならば自分を守り育んでくれるはずの学校が、逃げ出すことのできない小さな器となり、灼熱のような熱さで子供たちを襲う。人間の仮面をつけた獣どもはぬくぬくと権力に守られ、本能のままに獣としての欲望を満たす。これを地獄と呼ばずしてなんと呼ぼうか。
韓国だからこうしたことが起こっているのではない。どの国でも、そう、例外なく日本でも密室における児童虐待は起こっている。現実には、こうしたことを根絶することはかなり難しいことだろう。だが、せめて法治国家ならば法が悪魔どもに制裁を加え、然るべき罰が与えられる「べき」だ。だが、弁護士は善悪で動くわけではなく、すべては「金」によって決められる。悲しいかな、それが現実だ。原発利権に群がる人々に有利になるように物事が進んでいくように、権力を持った者たちのいいように、すべてが進んでいく。残念ながらそれが現実だ。
だが、その現実を知った世論の声が多大なものとなったとき、社会は動かざるを得なくなる。韓国でも、本作のヒットにより多くの人々が声をあげ、トガニ法と呼ばれる法律が制定されるまでに至った。また、当時はろくな罪に問われなかった本作の教職員に対して、つい先日の7月5日、裁判所は懲役12年を宣告。一人一人の力は小さくとも、それが集まれば世の中を変えるまでに至るのだ。
話は飛躍するようだが、振り返ってみてこの日本にも、理不尽な事柄は次から次へと湧いてくる。活断層の上に建ちながら堂々の再稼働を始めた原発、福利厚生施設を潤沢に持ちながらも利用者に料金の値上げを迫る電力会社。毎週金曜に官邸前で行なわれる原発再稼働反対デモも、いつか本作のように社会を変えていく手立てとなるのだろうか。いや、なってほしいと願うばかりだ。
原作:コン・ジヨン(『トガニ 幼き瞳の告発』蓮池 薫/訳 新潮社刊)
監督・脚本:ファン・ドンヒョク
出演:コン・ユ/チョン・ユミ/キム・ヒョンス/チョン・インソ/ペク・スンファン
配給:CJ Entertainment Japan
公開:8月4日(土)シネマライズ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
公式HP:dogani.jp
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