元・MI6スパイのジョン・ル・カレの最高傑作『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』を原作に、老いてより渋みを増したゲイリー・オールドマンを主演に迎えた本作。派手な銃撃シーンなどは一切なく、“リアル”なスパイ戦が淡々と進んでいく。
英国情報局秘密情報部MI6とソ連国家保安委員会KGBが熾烈な情報戦を繰り広げる東西冷戦下。英国諜報部「サーカス」を去ることとなった老スパイ、スマイリー(ゲイリー・オールドマン)に下された任務。それは、長年に渡り組織の幹部に潜り込んでいるソ連の二重スパイ「もぐら」の正体を掴むことだった。標的は組織幹部のティンカー(鋳掛け屋)、テイラー(仕立屋)、ソルジャー(兵隊)、プアマン(貧乏人)の4人だった……。
主演のゲイリー・オールドマンはもとより、他キャストも錚々たる重鎮と実力派の若手が揃っている。『英国王のスピーチ』のコリン・ファースらの他、実働部隊役として『戦火の馬』のベネディクト・カンバーバッチ、『インセプション』のトム・ハーディが参加。
ベネディクトは独特のあの顔立ちといい、劇中での働きっぷりといい、あとを引いて鑑賞後もなかなか脳裏からその姿が離れない。
そしてトム・ハーディ、この人こそ「役者」だ。出演作ごとに髪型が大胆に変わっているのもあるが、それ以外にも身のこなしや表情もすべて、他作品のときとはまったく別人に見える。今年公開予定の『ダークナイト・ライジング』では堂々の悪役を演じるというから、今後の活躍からますます目が離せない。
監督は、『ぼくのエリ 200歳の少女』で映画ファンから今もなお圧倒的な支持を受けるトーマス・アルフレッドソン。寒い国スウェーデン出身の独特のねっとりとした感性で、緻密に、そしてある種芸術的にスクリーンを構築していく。
言うまでもなく、スパイの仕事は我々一般人の目には見えない水面下で行なわれる。互いが互いを疑い、心の拠り所などどこにもないようなその水中は、体も思うようには動かせず、目もろくには見えず、息もできぬほど重く苦しい。一度このストーリーの幕が上がるや否や、観客である我々もその水中に引きずり込まれ、同様の状態に陥る。本作はそんな底知れぬ「力」を持った逸品だ。
原作:ジョン・ル・カレ
監督:トーマス・アルフレッドソン
脚本:ブリジット・オコナー/ピーター・ストローハン
出演:ゲイリー・オールドマン/コリン・ファース/マーク・ストロング/トム・ハーディ/ジョン・ハート
配給:ギャガ株式会社
公開:4月21日(土)、TOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
公式HP:http://uragiri.gaga.ne.jp/
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