本命と囁かれていた巨匠マーティン・スコセッシ監督の『ヒューゴの不思議な発明』を抑え、フランス映画にも関わらず本年度アカデミー賞で主要部門の作品賞、監督賞、主演男優賞他を受賞した目玉作品。CG全盛のこの時代において、敢えて白黒の無声映画がこの快挙を成し遂げたという事実。ともすれば技術ばかりを追い求めがちだった昨今の映画業界に、大きな波紋を投じる結果となったようだ。
1927年、ハリウッド。サイレント映画しかなかったこの時代に、大スターとして絶大な人気を誇っていたジョージ(ジャン・デュジャルダン)。だが、トーキー映画の出現により彼の人気は一気に陰りを見せ始めた。一方、最初はただのジョージファンにすぎなかったペピー(ベレニス・ベジョ)は、エキストラから瞬く間にトーキー映画の大スターに。ジョージを敬愛していたペピーは、彼を復活させるべくあれこれ画策するが……。
いつの世も時代というものは移りゆくもので、今日通用していたやり方が明日も同じ結果をもたらすかといえば決してそうではない。成功していたときのやり方にしがみつく者は、必ずや失敗の憂き目に遭うというのはビジネスの常識だ。挫折した中年男と、年若くして成功した美しき女性。この切ない対比はこの映画の中だけの話ではなく、自らの実生活を投影して多くの人が感情移入できる題材だろう。
彼のその人生の挫折、そしてそれを支えんとする彼女の想い。シンプルかつ美しいこの恋物語は、本作のこの手法だからこそ成功したのだ。もしも言葉多く、彩り溢れる画面で同じストーリーを描いても、ここまでの感動はなかっただろう。表面に現れているものが少なければ少ないほど、観客は自らの心の中でそれを補完しようとする。それこそが結果的に大いなる感動を生み出したのだ。
主演の役者二人の演技力もさることながら、犬のアギーの名演も拍手喝采ものだ。カンヌ国際映画祭でパルムドッグ賞を受賞する他、犬のアカデミー賞である第1回ゴールデン・カラー賞(金の首輪賞)で堂々の金の首輪賞、最優秀「俳優犬」賞を受賞するという快挙。
数多くの受賞があったからといっても、なかなか二匹目のどじょうは狙えない手法であることもまた事実。だからこそ、映画ファンにとって本作は決して見逃せない一本なのだ。
監督・脚本・編集:ミシェル・アザナヴィシウス
出演:ジャン・デュジャルダン/ベレニス・ベジョ/ジョン・グッドマン/ジェームズ・クロムウェル
配給:ギャガ
公開:4月7日(土)シネスイッチ銀座、新宿ピカデリー他全国順次公開
公式HP:http://artist.gaga.ne.jp/
©La Petite Reine – Studio 37 – La Classe Américaine – JD Prod – France 3 Cinéma – Jouror Productions – uFilm