スーパー!

20110719picm.jpg 不幸(?)にも公開時期が被ってしまったが、スピルバーグとJJが贈るエイリアンのアレ、ではない。本作は、ダメ亭主がお手製のコスチュームに身を包み、スーパーヒーローになり(きったつもりで)妻を救出するコメディ。とはいえ、似たようなシチュエーションで一世を風靡したハリウッド大作のアレ、のパクリでもない。あちらに負けず劣らず、『インセプション 』のエレン・ペイジ、『アルマゲドン 』のリヴ・タイラー、『X-MEN:ファースト・ジェネレーション 』のケヴィン・ベーコン、そして主役には『ギャラクシー・クエスト 』のレイン・ウィルソンという錚々たる面々が顔を揃え、シュールでリアルでブッ飛んだ、ハンパなくヤバい作品に仕上がっているのだ。

何をやっても冴えない夫、フランク(レイン・ウィルソン)。ドラッグ・ディーラー(ケヴィン・ベーコン)のもとへ走った妻(リヴ・タイラー)を取り戻すため、スーパーヒーロー“クリムゾンボルト”のコスプレを身に纏い、勝手に相棒になったリビー(エレン・ペイジ)扮する“ボルティー”とともに世の中の悪を一層しようとするが……。

20110719pic1.jpg まず、脚本も手掛けたこの監督に脱帽だ。
フランクの痛さといいリビーのヤバさといい幻覚シーンといい、奇天烈に見え、でも本当にありそうな絶妙なこのバランス感覚。クリムゾンボルトが正義を実現するために悪党をやっつけるのに対し、ボルティーは暴力に快感を覚えているかのようなサイコ娘でキレっぷりがヤバく、この二人の対比が見事。暴力シーンもあまりにリアルでエグく、『ソウ 』シリーズですらまるでファンタジーに思えてくるほどだ。
にも関わらず、笑いのみならず涙あり感動あり、そしてメッセージ性すらあり、善悪を考えさせられる哲学性あり。チープそうなコメディながら、『処刑人 』のような骨太な精神性が見え隠れするのだから、さすが、ダメだしされた何人もの脚本家をも尻目に『スクービー・ドゥー 』を書き上げて見事に大ヒットさせた脚本力だけある。

本作の主人公のフランクは言う。「人は“幸せ”に期待しすぎだ。大げさだよ。人生でもっとも大事だと信じ追い求める。幸せな連中は傲慢だ」と。かのビートたけしも、「“夢をもて、目的をもて、やれば出来る”、こんな言葉に騙されるな。何もなくていいんだ。人は生まれて生きて死ぬ。これだけでたいしたもんだ」との“名言”をかつて放っている。「頑張れば夢は叶う」なんてことは幻想でありそして強迫観念であり、実際にはいくら努力したって夢に破れる者はたくさんいる。
そうした者が自分の無能を恨み世間を恨み、夢叶わなかった自分と世界をリセットするために無差別殺人に及ぶのだ、といった趣旨だ。たけしの名言で言えばその大量殺人者になってもおかしくないくらい才能も金も夢もないフランクだが、敬虔(?)な信仰があったためにそうはならず、妻を失った悲しみは悪への怒りと転化する。彼の人生は結局ああなってしまったが、それを肯定できる確固たるモノサシを心の中に持っている彼は、実は人生の勝者なのかもしれない。

うだるような夏の暑さを上回るほどのヤバさで、クサクサした気分を吹き飛ばせる痛快な一本。クリムゾンボルトから元気と勇気を貰っちゃおう!



監督・脚本:ジェームズ・ガン
出演:レイン・ウィルソン/エレン・ペイジ/リヴ・タイラー/ケヴィン・ベーコン
配給:ファインフィルムズ
公開: 7月30日(土)よりシアターN渋谷にてロードショー他、全国順次公開
公式HP:http://www.finefilms.co.jp/super/

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