完璧。本作を表す言葉はこれ以外にないだろう。アリス・クリード嬢、そして彼女を誘拐した二人の男。ある一人の言葉から計画どおりに進まなくなったこの犯罪は、三人の緊迫した関係性を思いもよらぬ場所へと持ち去っていく。
普段ならこのあたりで簡単なストーリー紹介を書くべきところだが、あえて割愛させていただこう。本作はなんの前知識もなく、まっさらな状態で見てこそ、その凄さを充分に堪能できる傑作だからだ。「衝撃のラスト」どころか「衝撃の前半」「衝撃の中盤」「衝撃の後半」と、思わず口をあんぐり開けてしまうような驚きの展開が何度も現れる。サスペンスやミステリー好きの方々には願ったり叶ったりの大好物なのだ。
冒頭、男たちのプロぶりを見せつけるかのように、一言の言葉も発せられずにその作業は進められていく。このあとの二人の関係を示唆するかのように、男たちを左右対称で分断するかのような構図が素晴らしい。
登場人物は三人のみで、警察やアリスの家族の声すら流れない。もっとも、これは監督が自分に課したルールであり、だからこそ役者はその演技のみでそれらを完全に表現している。役者のほんの少しの目の輝きや曇りを見逃すまいと画面に集中するあまり、まばたきするのが惜しいほどだ。
『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂 』という大作で王女役を演じたばかりというのに、ジェマ・アータートンはアリス役で無残にも肢体をあらわにし、役者根性を極限まで試されるような演技に挑む。郷ひろみ似の若いほうの男役のマーティン・コムストンは『SWEET SIXTEEN 』でケン・ローチ監督に抜擢された実力派で、隙アリすぎの手馴れない感じが実に絶妙。中年役のエディ・マーサンは『ハンコック 』や『シャーロック・ホームズ 』にも出演する重鎮で、犯罪という重労働をテキパキとこなすデキる男をクールに傲慢に演じる。
この三人が、今まで脚本家としては活動するものの監督デビューに恵まれなかった、いわば無名監督の長編デビュー作への出演を快諾したのは、この脚本が並々ならぬ完成度を誇っていたからだ。
ロンドン映画批評家賞新人賞、そして英国インディペンデント映画祭レインダンス賞にノミネートされ、トロント国際映画祭、ロンドン映画祭、トライベッカ映画祭でも絶賛された本作。クリストファー・ノーランやダニー・ボイルにも次ぐと評される34歳の若き監督の才能に、誰もが舌を巻くことだろう。
監督:J・ブレイクソン
脚本:J・ブレイクソン
出演:ジェマ・アータートン/マーティン・コムストン/エディ・マーサン
配給:ロングライド
公開:6月11日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町&渋谷にて公開
公式HP:http://www.alice-sissou.jp/
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