古典的名作の『みにくいアヒルの子』や昨今では『重力ピエロ』もそうだが、血の繋がっていない家族という設定はそれだけで切なく悲しいカルマを含んでいる。
草食系恐竜のお母さんに育てられた肉食恐竜のハート。ある日、肉食の本性が目覚めてしまったハートは、草食たちの群れを飛び出す。そんな折、タマゴから殻を破って出てきたばかりの草食系恐竜の赤ちゃんを発見したハートは、思わず「おまえ、うまそうだな」と呟く。すると赤ちゃんは自分の名前を「ウマソウ」と呼ばれたと思いこみ、ハートを「お父さん、お父さん」と慕い始めた……。
ウマソウの声に扮するのは、“子ども店長”でお馴染みの加藤清史郎。健気で純粋無垢なキャラでその本領を発揮し、女性客のみならず、男性にもあるであろう母性本能をこれでもかこれでもかとくすぐりまくる。とにもかくにも可愛くて、ペットとして飼いたいくらいなのだ。彼の声を目当てに劇場に足を運ぶお母さん方も多いだろう。
異質なるものを排除とようとするのは種の保存のために欠かせない生存本能だが、それがあるときには陰湿ないじめを生み、人種差別をも引き起こす。そんな縮図を草食と肉食という絶対に永久に交わりえない恐竜社会でデフォルメし、文化や容姿の違いだけでいがみ合う我々の本能をさりげなく牽制する。子供のころからこうした思想に触れる機会が多ければ、将来、差別という悲しい行動に出ることも少なくなるだろう。
ただ、元々が「キャラ全員が優しい性格」の設定で書かれているので、物語のクライマックスは無理やり大変さ加減を演出しようとかなり不自然な結果になっているのが、オトナとしては残念といえば残念。ま、ここでリアル感を出してしまっては子供向けではなくなってしまうので、これぐらいが妥当というところか。
累計150万部を突破したベストセラー絵本を映画化した本作は、大人も子供も楽しめ、そしてちょっぴり泣けるハートフルストーリー。家族ぐるみで楽しんだあとは、散りばめられた深いテーマを子どもたちとぜひ語り合いたい。
おまえうまそうだな(Blu-ray)
おまえうまそうだな(大型絵本)
原作:宮西達也
監督:藤森雅也
脚本:村上修/じんのひろあき
出演:原田知世 /加藤清史郎 /山口勝平/別所哲也
配給:東京テアトル
ジャンル:邦画
公式サイト:http://www.umasoudana.com/
© 宮西達也/ポプラ社・おまえうまそうだな製作委員会