ウルフマン

アンソニー・ホプキンスとベニチオ・デル・トロの名優同士の競演と聞けば、それだけで心躍ってしまう。それにプラスして、『マトリックス』シリーズのエージェント・スミス役、ヒューゴ・ウィーヴィングも出演となれば、なおのこと。来日時に自身が語ったように、デル・トロは子供のころから「狼男」のファンだったそうだ。CG技術も当たり前のように駆使される今、あたかも現実のようにその「狼男」が復活を遂げた。
1891年、英国。舞台俳優の放蕩息子(ベニチオ・デル・トロ)は、兄が行方不明になったという知らせを受け、25年ぶりに生家に戻ってくる。彼を出迎えたのは、母とのある出来事をきっかけに親子の確執をまだ残す父の冷たい出迎えと、残酷なまでの殺され方をした兄の遺体だった……。

科学ではまだはっきりと解明されていないが、満月や新月の日に、人間の精神は異常をきたすという。自動車事故の増加、自殺者の増加、そして犯罪の増加。人間以外も例外ではなく、動物が人間を噛んだり襲ったりといった異常行動が多くなるという。人間は理性が効きづらくなり、動物は凶暴性が増すということか。そして狼男もまた、満月の晩に「発症」する。かくいう私も、理由もなくイライラしてしまうときは大概、満月か新月の日なので、それが単なる都市伝説ではないとも思えている。

本人も語ったように、デル・トロは元々「オオカミ顔」だ。だからCGでホンモノっぽく彼が狼男になってもさほどの違和感がない。そしてアンソニー・ホプキンスといえば真っ先に思い浮かべるが『ハンニバル』のレクター博士だ。彼の振る舞いはもともと紳士的だから、その彼が知的な猟奇的殺人を犯すとなるとかなりのギャップがあり、そのギャップが彼をずいぶん魅力的なキャラクターに仕上げる重要な要素になっている。だが本作の彼はもともとから変人であり、その変人が変人の度合いを増しても、レクター博士ほどのインパクトはないのである。映画ファンとしては残念だが、本人でも超えられない壁を自分自身が持っているというのは不幸でもあるが幸福でもあるのだろう。
そんな違和感がない者たちが競演するという意味では、本作は至極自然に、ナチュラルに、それが当然であるかのように狼男がスクリーンに存在しているのだ。肉体がああなることは現代ではそうそうないだろうが、ただ単に月の動きだけで我々の精神が異常をきたすことが文明が発達した現代においても当てはまるように、それはとても自然で、実はとても恐ろしいことなのだ。
願わくは、恋愛の過程、ゾッコン加減、心理描写をもっと深く描いてほしかった。本作の肝はそこなのだから、そうであればラストにももっともっと説得力が増しただろうに。
とはいえ、デル・トロの幼少のころからの夢が叶えられたのだから、ファンとしては必見だろう。

ウルフマン ブルーレイ&DVDセット(Blu-ray)
満月の夜にベニチオ・デル・トロ来日!
監督:ジョー・ジョンストン
脚本:アンドリュー・ケヴィン・ウォーカー/デヴィッド・セルフ
出演:ベニチオ・デル・トロ/ アンソニー・ホプキンス/ エミリー・ブラント/ヒューゴ・ウィーヴィング
配給:東宝東和
ジャンル:洋画

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