パレード

何ものにも表面と裏面がある。明るく太陽が照り返す名所でも、高く切り立つ崖ならば黒く濃い影を地面に落とすだろう。人間の心とて同様だ。背伸びして取り繕い、イイ人を“演じる”度合いが高ければ高いほど、心の闇は深くなる。本作は、そんな現代人にありがちな“闇”に鋭く切り込んだ、現代ならではの作品だ。

先輩の彼女に恋をした大学生、人気俳優と秘密の逢瀬をつづけるニートの女の子、おかまバーに通う深酒気味の女性自称イラストレーター、映画会社勤務で健康オタクの男性。一癖も二癖もある彼らは、ひとつ屋根の下、とあるマンションの一室で“ルームシェア”の名の共同生活を営んでいる。そこにある日突然現れた正体不明の金髪の若き男娼が加わることになる。一方、彼らの住む町では女性を狙った連続暴行事件が起こり始め……。

本当に言いたいことを言いあって仲良しでいるのと、自分を繕って表面上は仲良しでい続けるのでは雲泥の差だ。ただ、たとえ前者であっても相手が本当に心を開いてくれているかどうかが真の意味でわかるのは、相手の心が手に取るように見える超能力者くらいなものだろう(実在すれば、の話だが)。また一方、「親しき仲にも礼儀あり」の諺のように、たとえ親しくても超えてはならない一線がある。このように人間関係を円滑に、理想的に維持することはなかなか難しいことであり、それは古今東西、今も昔も変わらない事実だろう。だからこそ人間関係の経験値が少ない若者には悩みが尽きないのであり、その悩みを乗り越えて皆、「オトナ」になって行くのだ。
だが、現代人とは悲しいかな、そうした難しいことを避けて通りたがる。
そんなことで悩んで人生が滞ったり余計なエネルギーを使ったりするくらいなら、そんな面倒なことには蓋をして、よりクリエイティブなもの、やりたいことに時間や労力を裂きたいのである。だが、そんなコンピュータのようなゼロイチの二進法だけですべてが上手く行くわけはなく、蓋をされて行き場をなくしたエネルギーは、ある日、とんでもない経路からとんでもない形で爆発してしまう。

それを絶妙なキャストで描ききったのが本作だ。今までの出演作では映画なのに舞台のような演技を見せがちだった藤原竜也は実に映画らしくナチュラルに屈折した映画会社社員を演じ、ニート女子の貫地谷しほりは「うんうん、いるいる、こういう人」という舌っ足らずな女子を見事に演じ、イラストレーター役の香里奈は不気味な闇を覗かせ、一見屈託なく明るく見える大学生の小出恵介はイケナイ恋を明るくやらかしてしまい、金髪男娼の林遣都はシリアルから嫌いなレーズンを取り除く際に牛乳まみれのそれをじかにテーブルに置き(普通それ「皿ちょうだい」って言うべきだろ)、自己中で裏表があり掴み所のない現代っ子をリアルに演じている。
そしてラストに訪れる「それ」の不可解さ加減は……実に見事。ぜひ、劇場でご確認あれ。

パレード(Blu-ray)
パレード(文庫)
原作:吉田修一「パレード」
監督:行定勲
脚本:行定勲
出演:藤原竜也 /香里奈 /貫地谷しほり/林 遣都/小出恵介
配給:ショウゲート
ジャンル:邦画
公式サイト:http://www.parade-movie.com/

© 2010映画『パレード』製作委員会