MW -ムウ-

鉄腕アトム』や『ブラック・ジャック』、『火の鳥』で世界中の人々の心に光を灯してきた漫画の神様、手塚治虫。生誕80周年を迎え、その“神様”が残した恐るべきタブー作品を実写映画化したのが本作だ。

人口600人の小さな南の島、沖之真船島。のどかなはずのこの島で、一夜にして島民全員が虐殺されるという事件が発生する。だが、政府によってこの惨事は闇に葬むられた。次々と島民が殺されるなか、奇跡的に生き延びた二人の少年。やがて時が経ち、そのうちの一人は神父(山田孝之)となり、そしてもう一人は悪魔の心を持った美しい青年(玉木宏)へと成長する………。

同じ状況下に置かれた人間が、その後に対極の生き方を選択していく。たとえその発端が地獄絵図であったとしても、その暗黒から救いを求めて神近き人間となる者もあれば、自らの痛みを軽減させるために更なる暗黒を他者に味あわせんとして、自分自身が暗黒そのもののとなる人間もある。そんな人間の心の危うさ、恐ろしさを様々な描写で描いているのがこの『MW?ムウ?』だ。

特筆すべきは、“悪”のほうを演じる玉木。この役のために7キロの減量をはかり、見事に“美しいモンスター”となりきった。外見だけではない。ときどきあらわすその“魔”の表情は、まるで本物の悪魔が玉木に憑依したかのようだ。この世で本当に怖いのは幽霊でもなんでもなく、生きている人間の悪意そのものなのだろう。世の中には善人(に見える人)のほうが圧倒的に多い。だが、彼のように影にとてつもない闇を抱えていたら? そしてそれを操っていたら? 考えるだけでも空恐ろしい。作り話の中だけの話と信じていたい。
玉木の演技が鬼気迫っているからか、対する山田はそこにいるだけで善人に見える。今回神父役を演じた彼だが、普通っぽい感じ、そのへんにヒョイといそうな感じが、かえってこの物語にリアリティを感じさせる。

全編に渡り、要所要所でカメラは小刻みに揺れ動く。観る者の心を不安に陥れるかのように。そしてまんまんとその手中にはまり、得も言われぬ不気味な冷や汗が心の中に滴り落ちるのを感じるのだ。(夏にはちょうどいい怪談効果だけどね)

MW -ムウ-(DVD)
M(ムウ)W(コミック)
原作:手塚治虫
監督:岩本仁志
脚本:大石哲也/木村春夫
出演:玉木宏 /山田孝之 /石田ゆり子/石橋 凌/風間トオル/鶴見辰吾
配給:ギャガ・コミュニケーションズ Powered by ヒューマックスシネマ
ジャンル:邦画

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