エンブリオ

これはまた、行き帰りの通勤電車のお供に特におすすめである。息もつかずに読めるといって、時々はいやおうなく読みに切れ目が入った方がいい。そうでもしないと虚実の境目を見失う。それほど「医」の表裏・真偽を知り抜いた作者のしかけは綿密だ。

「エンブリオ」とは大義には「胎児」、特に受精後8週までの胚をいう。つまり、本作は最先端医療である生殖・再生・移植医療において止むことなく議論され続けている「生命倫理」がテーマ。
先に「受精」や「臓器農場」を読んだなら、なお織り込められたリアリティを理解する。むしろそれらを未読でいきなり本作にチャレンジするのは危険かもしれない。
「受精」に見られたロマンスも「臓器農場」にはあった勧善懲悪的結末も本作には用意されておらず、作者は徹底して闇と狂喜を描くことでのみ真なるもののありかを示唆しようする。
胸が悪くなるほどの展開の連続の果てに、読者自らが光る石を足元から拾い上げることを作者は要求しているのだ。
箒木ワールド、堪能!


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作者名:箒木 蓬生
ジャンル:–
出版:集英社文庫

エンブリオ(上)

エンブリオ(下)