「ヒトラーの防具」をさらに越えたボリューム。上巻が623、下巻が581ページの超大作。
いやいや、ちーとばかしキツイですぞ。
主人公・森田征二は大戦中、憲兵それも特高として軍務していた。 中国人になりすまして中国民間に紛れて、中国人の漢奸を使っての諜報が任務だった。やがて敗戦を中国で迎える。
武装解除後も、そのまま憲兵として軍に残留すれば、恨み骨髄の民衆から血祭りに揚げられる。もしくは軍法会議にかけられて極刑に処せられる。
で、「逃亡」を選択したわけだ。
回想の挿入が四六時中で、本筋が遅々として進まなくても「ダルイ」など言わずに、とにかく最後まで辛抱して読むべし。さすれば、「逃亡」の怖さを主人公と共有し、後半その必要性が明確になる。
さて、「ヒトラー…」と「逃亡」、どちらが先に書かれたかは知らないが、この両大作は切っても切れない、いわば対を成しているものと覚える。
作者は両作を通して第二次世界大戦を総括しようとし、さらには「戦争」というものを解剖しようとしたのではないかと思えるからだ。
PKOがPKFになり、憲法改正が論議される昨今。世界平和に対する公平かつ対等な国家負担、そのへんで判断しかねている向きも多いのではないだろうか。
男性論理の大義名分で「軍備」を語ることの「落とし穴」を思い返さねばなるまい。
「ヒトラーの防具」「逃亡」を読み終えて、単純理論が最も真実と思い直す。
「人が人を殺す」のが当たり前の「戦争」は、どんな事情であれ肯定できるものではないならば、腰抜け、無責任…ありとあらゆる「批難、中傷、批判」に耐えても決して「軍備」すべきではない。
作者名:箒木 蓬生
ジャンル:小説
出版:新潮社文庫