未来の森を育てるためのハイキング――大台ケ原山

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辺りは鹿が食べる笹が生い茂り、
木の根元には防シカ対策である金網が
巻きつけられています
奈良県と三重県の県境にそびえ立つ大台ヶ原山。日本でも有数の多雨地帯として有名で、大阪の年平均降水量が1300ミリに対して年平均降水量が5000ミリにも及ぶ。
運よく雨も降らず快晴だったある日、東京や長野からも登山愛好家が訪れ、日本の秘境100選にも選ばれているというハイキングコースに運動不足な私が挑戦してきました。約8キロのコースを3時間半から4時間かけて歩きます。

「ハイキング日和だな〜、いい運動になりそう」などと軽い気持ちで考えていた私は、大台ケ原山の現状に驚かされました。

台風による倒木で森が乾き自生していた苔が減少し、相反して増えた笹を食べる野生の鹿が増殖。木の樹皮を食したりさらには入山者の増加など、さまざまな要因で森林の衰退が進み、森がすっかり荒れ果てている。それを受けて現在、西大台では日本国内で初めて入山者の利用調整を行ったり、特別保護地区を設け、登山者に情報を発信していくなどさまざまな再生への取り組みを行っています。

ハイキング経験が少ない私は「そうは言っても大自然だよね〜」と鳥のさえずりを聞きながら森の中を歩いていましたが、鹿が木の樹皮を食べてしまわないように木には金網が巻かれていたり、自然のままでは成長しなくなってしまうので種を集める網を設置していたりと、さまざまな工夫に出会いました。

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突然、霧とともに現われた野性の日本
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岩がゴロゴロしているので歩きにくい山道
「絶景ポイントは大蛇蔵(だいじゃぐら)なので、帰り道はアップダウンが激しいですが頑張ってください」
と、ビジターセンターのお姉さんに励まされ「頑張ります!」と返事したのも束の間、2キロほど歩いて息が切れ日ごろの運動不足を悔やむ結果に。足元が急な岩場もあるので、なかなかの体力が必要です。
大蛇?まであと1キロというところで、野生鹿の群れが霧とともに現われました。友人と「やっぱり霧は幻想的でいいね〜」などと言いながら歩いていて「もしかして、こんなに頑張っているのに、大蛇蔵を目前にして霧のせいで絶景が見えないってことないよね!?」と誰もが気づくことにようやく気づき焦り始める……。

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シオカラ谷の吊り橋
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牛石ヶ原にて神武天皇像
「大丈夫、大丈夫。霧は晴れる」とお互いに呪文を唱え励ましあいながら歩くこと20分。大蛇蔵に到達するも先ほどまでの快晴がウソだったかのように霧は立ち込めたまま。日ごろの行ないがよっぽど悪いのか何なのか……。
待っていても霧は晴れそうにないので不運だと諦め、霧が深くなる前に急いで戻ろうと少し近道の急勾配コースを選択。「ハイキングというより、登山だよね……」という言葉を発してからアップダウンの辛さに10歩進んでは休憩し終始無言でしたが、吊り橋が見えてきてほっと一息。空気中の適度な水分が橋と地面を濡らして神秘的でした。

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大蛇蔵まで到達したものの霧で何も見えず……
もうすぐビジターセンターに到着というところで登山歴1年というおじさまたちと出会い「やっぱり、大台ケ原は霧が出てなんぼや。霧が出て良かったな〜」と声をかけてもらい、絶景が見られなかったという心の霧はスカッと晴れました。

絶景ポイントからは景色が見られず、せっかくの苦労が……と「きりきり舞い」でしたが、実際に自然や四季を肌で感じながらも、森が抱える問題点や自然と人間との共生を考えハイキングをするという経験は、100年先の未来の森を守り続けるためには必要なことですよね。