景品争奪戦に乗り遅れるな! アンデスの祭りユンサ

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しかめっ面の守護聖人、聖ブラス翁
アンデスの祭り「ユンサ」に偶然遭遇した。家族とともにクスコ旅行へ出かけていた私は、遺跡見学ばかりに気を取られていて、まさかここで祭りを見ることができるとは思っていなかった。が、よく考えると2月はカルナバル(カーニバル)・シーズンだ。この時期はペルー各地で祭りが開かれる。

アンデス地方でよく行なわれるのが、このユンサだ。別名を「コルタモンテ/木を切る」といい、参加者全員が踊りながら順番に斧を入れ木を切り倒すというイベントで、枝には服やお菓子、プラスチック製品などがぶら下げられている。クライマックスは、最後の一太刀が入った瞬間! 大人も子供入り乱れての景品争奪戦の開始だ。木の下では、その瞬間が待ちきれない子供たちが枝に飾られた風船を取ろうとして、世話役の大人たちから何度も怒られていた。

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景品が吊り下げられた木のまわりを
みんなで踊るユンサの祭り
このユンサが行われていたのは、クスコにあるサン・ブラス教会前の広場だ。2月3日の聖ブラスの祝日に合わせて開催されたらしい。我々が遭遇したときは、まさに聖ブラスを乗せた御輿を教会から担ぎ出すところだった。色鮮やかなアンデスの帽子チューヨとポンチョを被った碧眼白肌のカトリックの守護聖人・聖ブラス像が現れると、人々は歓喜の声を上げた。聖ブラスは病、特に喉の病気を治す聖人である。聖ブラス像の首に巻きつけられた色取り取りの紙紐はコルドンと呼ばれ、喉を守る意味があるという。

広場を一巡した神輿が教会入口に収められると、待ちに待ったユンサの開始だ。ありがたいコルドンを首に巻きつけた人々が、輪になって踊り始める。斧を持った男性も踊っていた。彼が今回の主催者なのだろう。ビール片手に踊り続ける人々、いやはや楽しそうだが一向に木を切る様子がない。来賓席にいた女性に聞くと「あと30分もすれば」という。ペルーの30分は30分にあらず、きっとまだまだ始まらないだろうと一度宿へ戻ることにした。

そして1時間後。もうすっかり日も暮れて、街灯のオレンジ色の灯りが柔らかく辺りを照らしている。しかし人々は相変わらず飲んで食べて踊っての繰り返し。いったいいつになったら斧が入れられるのか。
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丸々一個のジャガイモ付き! 
牛ハツの串焼きアンティクーチョが飛ぶように売れていた
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いつもお腹を空かせた野良犬も、
この時だけはごちそう食べ放題
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「栓抜きなんて不要だよ」とケースの縁で栓を抜くオニイサン。
しかし勢い余ってビールが半分くらい噴き出していた
2時間後。まったく切り始める様子がない上に、酔っ払い続出。広場にはビールの空瓶が転がり、犬がおこぼれに預かろうと足元をうろちょろし……。もう一度誰かに時間を尋ねようかと思ったが、どうも目があさっての方向を向いてしまった人が多く剣呑な雰囲気がした。このままここにいても、ビールの回し飲みを強要されるだけだ。後ろ髪を引かれながら、私は宿に戻った。

翌日、広場には身ぐるみ剥がされた無残な姿の木が転がっていた。一体何時から切り始めたのだろう? あの酔っ払いたちは、景品争奪戦に参戦できたのだろうか? その瞬間を見逃してしまったのは残念だが、そこかしこに捨てられた大量の空き瓶を横目で眺め、あの時宿に戻ってよかったとほっと胸をなでおろしたのだった。